QC(量子コンピュータ)市場を解析する会社。。。。VALUENEX(Q2B Tokyo)

ValueNex という会社は聞いたことがなかったが、Q2B Tokyoで20分程度のプレゼンを聞いて非常に面白いと思ったので、書いてみる。この会社はQCの会社ではない。しかし、この会社の技術をQCの市場に適用すると非常に面白い。

ValueNexとは?

2006年に創立されて、2018年に株式上場を果して、現在は東証GRT(グロース)で取引されている。東証グロース市場の詳細はここに

ValueNexとは:

VALUENEX独自のアルゴリズムにより数千~数十万の大量かつ多様なテキストデータを解析。データ内容の関連性を精緻に配置し、1枚の図として可視化します。このデータランドスケープから、市場のトレンドは何か、成長見込みのある領域はどこか、自社技術の展開先はどのようなものが考えられるか、などさまざまな考察が可能となり、IP (知財情報) を含む多様なデータを活用した経営戦略、事業戦略、知財戦略、R&D戦略、マーケティング戦略といったビジネス戦略を強力に支援します。

DXにおけるテキストデータ利活用、IPランドスケープ、新コーポレートガバナンス・コードへの対応といった課題にも、VALUENEXソリューションがお応えします。

ValueNexのホームページ より

この技術は広く多くの技術分野に適用することができる。例えば、ある分野の現在の傾向やそれを元に将来の動きを予想するのに使うことができる。この会社はQ2Bでは、直接QCに関するプレゼンが殆どであった中で非常に筆者の興味を引いた。ここで、断っておくが実際の技術を精査した訳でもなく、競合との比較をしたものではないので、同様の技術や解析を提供する他社があるかも知れない。ここでの、解析はあくまでコンファレンスでのプレゼンとホームページからの情報を元にしたものである。

プレゼンはCEO & Founderの中村達生氏がCOOのJiyoung CHOI氏が作成したスライドを日本語で行った。当初はCHOI氏が東京で発表する予定だったが、スケジュールの関係で中村氏が代わりに行った。

Q2Bで講演する中村達生氏、CEO & Founder

Jiyoung CHOI氏
COO of VALUENEX, Inc. (USA)、出典ValueNexのホームページより

複雑なQC市場の動向、現状と将来への展望

毎日色々なところから、可能な限り毎日QCに関連する情報を英語・日本語で収集している。ソースはGoogle Alerts、Linkedin、Twitter、他のQC関連のnewsletter、個人的な情報交換などだ。1つ1つの情報を読んでも、大きな流れを理解するには中々困難だ。興味のあるところは、

  1. QC市場は全体としてどの技術分野へ移動しており、現在はどこにその力を集中しているのか。
  2. それぞれの競合会社の戦略と戦術はどうなのか。どの会社とどの会社が競合しているのか。協業や買収・合併の兆しはどうか。

1はQC市場の動向を調べるには必須だ。そしてその解析から、2つの離れた有力な分野を繋ぐ分野が空いていれば、そこを埋めることができる会社が次に市場を抑えることができるかも知れない。2に関しては、Q2B Tokyoでは、富士通のプレゼンがあった。富士通、NEC、東芝、日立が大規模な量子アニーリングの分野で競っている。それぞれの会社は自社の解が最適だと主張するだろう。その時、アナリストとしては、入手できるデータの中からどの会社の解が最良なのか、全く同じ土俵で戦っているのか、それぞれズレた分野で競合している(ように見えるだけなのか)のかの解析を行う必要がある。もちろん、それぞれの競合会社も2の解析結果を用いれば、自社の立場が競合他社に比較して優位なのか、劣勢なのか。もし、劣勢ならば、どこをどのように補強すれば優位性を得ることができるのかを判断する客観的なデータを入手できる。また、この解析の結果、競合と思っていた他社が、実はある工夫をすれば、補完関係になることが理解できるかも知れない。

ValueNexの技術を使ってQC市場を解析する

それでは、プレゼンとホームページから理解できた部分だけ述べてみよう。まず、どうやってそれぞれの会社の技術や動向を客観的にみることができるのだろうか。QCの分野は他の分野がそうであるように、必ずしも語彙が標準化されているとは限らない。では、どうやって標準化するのだろうか。CHOI氏はQCに関する特許情報を2001年から2022年までの3384件の出願を解析した。何故、特許かと言うと、各社は自社の特異点を表現して、有利に展開するには、まず自前の技術を特許で抑えておきたいと思う。更に、各社同じことを表現するにしても、マーケティングの観点から異なった語彙を使用するかも知れず、特許を解析すれば、異なった表現を使用していても、技術的に同じことであることを判断できるからだ。

では、仕組みを見てみよう。再度断っておくが、筆者はこの技術を精査した訳ではなく、プレゼンに沿って解説しているだけである。なお、プレゼンはCHOI氏から入手した。

手法、出典ValueNex

それぞれのステップの詳細はプレゼンからは分からないが、大きな観点から言えば、(特許の出願情報からの)Big Data を解析(clustering)してその結果を見える化(visualization)してその情報を元に最終的な解析(analytics)をすると言うことだ。当然、クライアントは見えるかと最後の解析にしか興味はないだろうが。ホームページには更に、

VALUENEXの俯瞰解析は、各データ内容の類似度を精密に解析し、密集度や関係性を正確に表現しています。また、等高線やヒートマップ表示、トレンドライン、特徴語タブ、グラフ、注目領域の自動表示といった、多角的な視点から結果を見ることができる各種機能を備えており、人の洞察力を刺激します。

解析結果をベースに、他部門との共通の理解を醸成、ディスカッションをスムーズにし、多様な経験や知識も加わった深い考察が可能となります。人のインスピレーションを最大限に活性化させ、アイディアやイノベーションの創出へと導きます。

ValueNexホームページより

実際の結果

結果についてはその一部だけ引用する。それぞれの点と点の距離は関連性が近いほど関係が深い。また、青色よりも緑や黄色はそこに力が集中していることを示す。

出典ValueNex

このスライドでは、それぞれのQubitの実装方式と応用分野との関連性を読み取ることができる。

図の見方(非常に簡略に)

図はValueNex Radarと呼ばれる。図は直感的に理解できる。簡単にウエブサイトの情報から、説明してみる。

円形は同様なドキュメントを表すクラスターで、大きさはドキュメントの数を反映する

密(動きが激しい)と疎(動きがほとんどない)で動きを表現

線は動向や傾向を表す。

もっと詳細は、ValueNex Radarを参照。

QC市場の動向、出典ValueNex

このスライドを見れば、市場の方向と動向はHardwareからSoftware(Algorithm)へしかも、基礎研究からApplicationへと移動しているのが顕著に窺える。また、SoftwareとHardwareの間にはかなりのギャップがあることが分かる。これは、OS やMiddlewareが不足していることを表している。またHardwareに関しては、多分Qubitなどが主体で、Qubitなどのコアの部分をサポートする冷却システムや、マイクロ波やレーザー光線絡みのシステムはあまりないのではなかろうか。(もちろん、詳細が分からないのでなんとも言えないが。)このような動向は確かにこのような解析をしなくても、毎日市場をフォローしていれば分かる。しかしながら、このようにはっきりと提示されれば他の人に説明する時説得力があり有効である。

各社の戦略

プレゼンにはこの分野のトップを走る会社のほか有力な日本の会社がどこに力点を置いているのか、どこに向かっているのかの情報も含まれている。ここでは、各社の情報に関しては、割愛する。また、今回の解析は特許出願という客観的なデータを元にしているが、中村氏が発表の中で述べていたように、他の情報、例えばマーケティング情報などを加味すれば更に詳細で精度の高い解析結果を得ることができるだろう。どこかの会社がValueNexの結果を利用すれば、自前で解析するよりも有益な結果を得ることができるかも知れない。

QC市場解析の結論

以下の結果が導き出された。

結論、出典ValueNex

動向やアプリケーションに関しては、周知のように機械学習、シミュレーション、最適化等々で、5つの有力ベンダーでは機械学習、QCと古典コンピュータのハイブリッド型と超電導だ。最後の超電導は、Microsoft以外が採用しているからか。

考察

特許の出願データを使うのは理に適っている。1つには、特許の解析で語彙のばらつきを標準化できる。更に、特許出願が多いことは、その分野に力を入れている証拠であり、かなり客観的に市場を見ることができる。マーケティング情報はどうだろうか。技術よりもマーケティングに力を入れる会社があった場合、そちらにバイアスが掛かりはしないだろうか。例えば、やたらにPress Releaseを発表する会社があったとして、それが全体の絵の中でどのような影響を持つのだろうか。興味のあるところである。

その他、以下のようなデータソースが考えられるとValueNexがホームページで述べている。

  • 論文
  • ニュース、SNS
  • 新聞、雑誌
  • アンケート
    • 社内各種データなど

今回はプレゼントホームページを短期間見ただけだが、もう少し調査してみたい。