富士通とQC by 佐藤信太郎博士
シリコンバレーに長く住んでいたが(1985-2019年)、たくさんのコンファレンスに参加した。SFで開催されるものも多少はあったが、多くは、地元のSanta Clara市(Santa Clara Convention Center)、San Jose市 (San JoseMcEnery Convention Center)やMountain View市( Computer History Museum) で開催された。1度くらいは自腹で参加したこともあるが、大部分は会社持ちかMediaということで無料参加が多かった。
富士通はSunnyvale市に研究所を持っており、年に2度ばかり富士通主催の1日コンファレンスを開いていた。場所は、大体はSanta ClaraかMountain Viewだった。普通日本の会社が米国で主催のコンファレンスを開くと小規模なものが多く、speakerも自社の人が多いのだが、富士通はその時点でComputerやIT分野で一番ホットな題目をシリコンバレーやその他からの有名な研究者や大学の先生などを招待するという豪華版だった。しかも、参加資格は「生きて呼吸をしている」ということで、誰でも参加できた。その上、朝食、昼食、夕食付きで、1日二回のコーヒーブレークにお菓子付き。夕食時は酒までついた。そうしたら、少なくとも参加費くらい取られると思うかもしれないが、これがまたけしからんことに、「無料」筆者はMediaを標榜していたので、どうぞ参加してブログを書いてくださいというありがたいお誘いをいつも受けてた。(余談モード オン:このため、全く業界と関係ない人々が参加申し込みをして、タダ飯、ただ酒を飲むというややこしいことも多々あったようだ。余談モード オフ)。
1日目のQ2Bの午後の部で、富士通の佐藤信太郎博士の講演を聞いた。博士のプレゼンが見慣れた富士通風のスライドだったので、上の昔を思い出した。年ですな。「お年寄りは大切に。」
佐藤博士は、筑波大学で学士、修士の後、米国のUniversity of Minnesotaで Mechanical Engineeringで博士を授与されている。現在の肩書きは、フェロー SVP、量子研究所長 。
佐藤博士の写真(筆者撮影)はここに示してある。
次に何がプレゼンされたかと示すために博士の最後のスライドを最初に示す。
最初にQCの実機とsimulatorの開発の話をして、次にNISQの時代でも実用できるようなalgorithmの改良(ゲート数を減らして1,000-10,000 Qubitで計算できるように)と、最後にQCが実際使い道があるまでの間にQCインスパイアードのDigital Annealerの開発と実績を述べた。
講演では、まず最初に富士通におけるコンピュータの技術の変遷を述べた。
スライドを見ての通り、2010年台後半から、QCインスパイアードのdigital annealingを研究し始めて、2020年台から本格的に汎用型QCに取り組んでいる。
QCに対する戦略としては次のスライドに示されているが、多くの研究機関とパートナーシップを組んでいる。特に昨今は理化学研究所との協業が目を引く。
QuanasysとはAlgorithmとエラー抑制の分野で、Keysight Technologies(Joe Emerson教授)とは、エラー抑制の分野で、大阪大学(藤井啓祐教授)とはエラー訂正の分野で理化学研究所(中村泰信教授)とは、制御回路と超電導の分野で、QuTech(TU Delft大学)とは制御回路とダイアモンドのスピンの分野でそれぞれ協業している。理研との協業では、今年の秋には64QubitのQCがリリースされる予定だ。
NISQからFTQCへの移行に関しての興味深いスライドを下に示す。スライドのグラフの横軸に年で、縦軸に物理的なQubitの数を示している。移行の途中で「初期FTQC」をいう言葉を使っているのが面白い。これは、BCG(筆者のブログを参照)が言うところの最初になんらかのエラー処理で行われてFTQCの入り口にとっかかる2030年に近い2025年を指し示している。
現状ではNISQのために大きな量子回路を組めない。なんとかなる方法はないのだろうか。ここで、佐藤博士は”Phase Rotation Gate”というものを紹介した。富士通、大阪大学と理化学研究所の共著で論文が書かれている。論文のタイトルは、”Partially Fault-tolerant Quantum Computing Architecture with Error-corrected Clifford Gates and Space-time Efficient Analog Rotations“ということで、「Partially Fault-tolerant Quantum Computing Architecture」が「初期のFTQC」ということなんだろ。もちろん内容はこのブログの範囲を超えてるし、筆者も「必死のパッチ」で読んでもわからないので、これ以上は触れないが。(余談モード オン:1。QCのAlgorithmは「もうあかん」となってから、色々な工夫でリソースを食わない手法が開発される。筆者などはほんの素人に毛が生えたようなものだが、量子の振る舞いを数学で表せるので、複素数で表したQubitにガンガン行列を掛けてテンソルで表して、ごちゃごちゃやってれば、実際の量子を扱わなくても新しいAlgorithmはできる。2。大阪大学は際立ってQCの分野ではスゴい。余談モード オフ)
全部理解せずに知ったかぶりは危険だけど、ざっとみた感じで言うと
- FTQCの実現には、最終的には100万qubitが必要かもしれないが、初期のFTQCを1,000 から10,000 Qubitで実現できる論理的な基礎を固めたいという動機。
- この論文は、初期の FTQC デバイスに適した量子コンピューティング アーキテクチャである STAR アーキテクチャを提案する。 STAR (Space Time efficient Analog Rotation)では、任意の回転ゲートと誤り訂正されたCliford Gate(H, S、CNOT)によって汎用量子計算が実現される。
- で、結果を見ると期待が持てると言う話。
- これ以上やるとボロが出るので、やめておく。
更に、QC実機だけでなく、QC Simulatorの研究も行っている。
QulacsはQunasys, 大阪大学、NTTと富士通によって提供されているオープンソースのPython/C++ で書かれた高速Simulatorだ。
QCの実機とSimulatorに関しての計画は以下のようだ。2020年台のうちに成し遂げたいリストのようだ。2030年を一つの区切りと考えているのだろう。
2023年秋にが 64 qubitを理研RQC-富士通連携センターでリリースの予定、2025年には256 qubitで2026年辺りは1,000 qubit以上とかなり攻める計画だ。
理研RQC-富士通連携センター
2021年4月1日より設立の本連携センターでは、理研が取り組む超伝導回路を使った量子コンピュータの先端技術と、富士通が保有するコンピューティング技術、顧客視点に基づいた量子技術の応用知見を統合し、共同で超伝導量子コンピュータの実用化に向けた研究開発を行います。具体的には、1000量子ビット級への大規模化を可能とするハードウェア、ソフトウェア技術の開発や、実機を活用したアプリケーションの研究開発を行います。各技術レイヤーの研究を総合的かつ効率的に推し進め、求解が困難な社会課題の解決に貢献する、誤り耐性のある超伝導量子コンピュータの実現に向けた基盤技術の開発を目指します。
理化学研究所のこのページより引用
最後にQCインスパイアードの技術であるdigital annealer(DA)についても言及した。汎用QCが開発されまで時間があるので、その間に実際の問題を解くことのできるDAも開発して実際に問題を解決している。3つの応用例を示した。
DAは確立された技術で現在の問題を解くことができ、それはそれで重要なことだが、どうも筆者はDAに関してあまり興味がないので、DAに関しては富士通のこのページを参照されたい。