よろずQCのZen問答: 湊氏が予測するQCの3年後とそれ以降

さて、blueqat 湊氏の追いかけで、できるだけ氏の発信は見て聞くようにしている。あまり専門性の高いものは無理だが。。。。今回は「今後三年の量子コンピュータ業界を大胆予測。三年以降の流れも。」というビデオを見た。なかなか面白い。しかし、うかっと聞いていると内容を覚えきれない。湊氏はこれに関してはblogを書かないようなんで、このレベルの専門性ならということで書いてみる。

内容は、以前の「これを見れば世界の量子コンピュータの流れがわかる」の続きと考えられる。以前の動画では、時期を1985-2014年、2015-2019年と2020年以降の3つの時期に分けて、QC(量子コンピュータ)のハード、ソフトとクラウドの発展状況を端的にまとめている。既に2,500件以上視聴されている。

今回の動画は以前の動画で触れられた最後の時期の後についてどうなるか大胆に予測している。つまり、2021-2023年と2024年以降の2つの時期だ。湊氏も述べているように、QCの分野で3年先を予測するのは非常に困難で、他ではあまり見かけない。しかし、QCの会社の経営者としてそう言った予測は不可欠だろう。では、まず以前の時期を表す図から。

Blueqat湊氏のこれを見れば世界の量子コンピュータの流れがわかるより

では、湊氏のビデオを基に、新たな時期を追加した図を筆者が描いてみた。

湊氏3年以内とそれ以降のQC市場予想

注1: FTQC用の開発で振り出しに戻る感じ。注2: 基礎研究が終了程度で、この時期の実用化はない。注3: QPEの研究が進むと、暗号化への応用も進む。色に関して、NISQでQCと古典コンピュータをどちらも必要とするものはオレンジ色で、(FT)QCのみで稼働可能なものは青色で示す。注4: 超電導型が完全に無くなるわけではない。

前にも表示下がalgorithmの名前を日本語と英語で対比するものを囲みにあげておく。

日本語と英語のAlgorithmの名前

VQE (Variational Quantum Eigensolver):  変分量子固有値解方(ソルバー)
OAOA (Quantum Approximate Optimization Algorithm):量子近似最適推定
QPE (Quantum Phase Estimation):量子位相推定
QAE (Quantum Amplitude Estimation):量子振幅推定
QAA (Quantum Amplitude Amplifier):量子振幅増幅
QATE (Quantum Amplitude Time Estimation):量子振幅時間推定
QTE (Quantum Time Estimation):量子時間発展
ATE (Adiabatic Time Evolution):断熱時間発展
QML (Quantum Machine Learning):量子機械学習
QCBM (Quantum Circuit Born Machine):  量子回路ボルンマシン
QC Algorithm英語・日本語対比表

以前の湊氏の図のように、上から4つの分野を考える。つまり、量子化学計算、組み合わせ最適化、金融とAIだ。現在2021年以前より、量子化学計算、組み合わせ最適化とAIにはNISQ用のalgorithmが存在する。それぞれ、VQE, QAOAとQML(これは一般名で特定のalgorithmではない)。金融に関しては、Hybridで使用する必要のないQAA/QAEが使用されている。では、1つづつ見てみよう。

2021-2023年の状況

Algorithm

量子化学計

量子化学計算に関しては、VQEのFTQC版のQPEにとって代わられる。。但し、VQEからQPEへは大きなジャンプなので、時間がかかるため2024までの3年間は基礎研究が終了する程度で、実用化とまではいかない。

組み合わせ最適化

QAOAからFTQC版のATEへは大きなジャンプなので、時間がかかるため2024年までの3年間は基礎研究が終了する程度で、実用化とまではいかない。

金融

金融用のQAA/QAEはHybirdを必要とはしないが、金融への応用が始まったのが遅かったために、時間がかかるたり2024までの3年間は基礎研究が終了する程度で、実用化とまではいかない。

AI/ML(人工知能・機械学習)

FTQC用のalgorithmは存在する(HHLなど)がまだかなりの時間を要するため、しばらくはHybrid形式の機械学習の動きが活発となる。この時期はその発展が続く。湊氏はあまり機械学習に関して特定のalgorithmに関しては明言していない。

暗号

ここで、QPEが改善されるとこれは、暗号化への応用も加速されるので、この時期今まで人々レーダーで感知されていなかった暗号化への応用が目立ち始める。QPEは暗号が破られると大騒ぎになったShor’s algorithmに使用されているためだ。

Hardware

2020年辺りからQC分野でニュースや話題になり始めたIonQIon Trap形式は現在ではFTQCに一番近い場所にいる。(IonQに関しては、過去blog1過去blog2を参照)、超電導型は同じような地点まで持ってくるのは容易くなく、今IBMMSAWSGoogle(非公式)の大手QCの会社がIonQの技術を支持している。この形式への参入障壁は大きいので、競合が出てくる可能性は低い。また中国でもこの形式を採用している会社はない。同様の技術を使用しているのは大企業のHoneywellだけだ。湊氏はこの期間は米国のこの2社、IonQとHoneywell社がhardwareの領域では市場を独占すると見ている。だからと言ってIBMがその超電導型を放棄するとは限らないが。

光QCに関しては、この時期にソフトウエア基盤とUser Communityの立ち上がりがキーでそれがないと発展は難しい、現在は殆ど皆無である。BlueqatはSlackで光QCのグループを始めたばかり。

まとめ

この時期の目玉はhardware的にはIon Trap型のIonQまたはHoneywell社で、ソフトとしてはHybrid型のML(QML).

2024年以降

では、2024年以降はどうなるのか。

QPE

QPEがFTQCに近いハードで実行できることで、更に改良が加えられて改善する可能性大。そのため、量子化学計算と暗号への応用が進む。暗号への応用ということは現在ある公開鍵暗号が破られることになり、新たな暗号の取り組みが必要となってくる。これに関しては、前のblogから引用すると、

現在米国のNISTは現在の公開鍵暗号の次を決定すべく公開で新しい技術を求めている。現在69の応募の中から15に絞り更なる精査を行うようだ。

筆者のQCのAlgorithmの分類より

活発に動く分野

量子化学計算はQPEの進歩とともに前進すると見られる。残りの分野、組合せ最適化、金融、ML、暗号もFTQC上のみで実行可能になり進歩する。この他、simulationにも前進が見られるようになる。

世界規模の競争

近年中国のQC分野での台頭が目覚ましく、米中競争から更に技術前進に影響があると予測される。

Hardware

ここ3年ほどはIonQ/HoneywellのIon Trap型が席巻するだろうが、2024年以降はどうなるかは現在不明だ。湊氏は巷でも言われているようにシリコン型QCが台頭してくるのではないかと見ている。

シリコン型はまだこれからだが、川畑史郎氏の最近のプレゼにもあるように、その利点は最先端のシリコン電子工学を適用できるために、大規模化により大量生産が可能になり、超低温度を必要としないため小型化が見込めることである。川畑氏も湊氏もこの方式が将来は本命になると見ている。但し、いつ頃実用化できるかは不透明だ。この方式に参入している主な企業はIntel、台湾の半導体メーカの大手のTSMCである。特記に値するのはベンチャーのSilicon Quantum Computingだ。ここには、米国のUniversity of CaliforniaのSanta Barbra校の教授でGoogleに移動したのち辞めて参加したJohn Martinisがおりその際には話題を集めた。湊氏はYoutubeチャネル(量子コンピュータチャンネル Blueqat)とほぼ毎日勉強会と称して30分程度のZoomによるプリぜんを行っており、その中でGoogleの超電導型のQCに大いに貢献したMartinisは超電導の限界を見越してシリコン型に舵をきったのかもと発言していた。

筆者のよろずQCのZen問答: 世界規模でみた現在の量子コンピューター市場を端的にまとめる(その1: ハードウエア)より

IonQとIBMの製品計画と比較

最後にIonQとIBMの製品計画と比較してみる。

IonQの製品計画はここを参照。筆者は以前のblogでIonQの製品計画で以下のように述べている。

興味深いのは機械学習が2024年の初頭に来ており、2026年初頭には材料と最適化が上がっている。一番よく言われてきた量子化学計算が2028年まで遅れているのはふーんと思う。湊氏はblueqat社では最近機械学習に力を入れていると語っている。Googleもまた量子AIを強調している。

筆者のよろずQCのZen問答: 世界規模でみた現在の量子コンピューター市場を端的にまとめる (その3-1:ソフト)より

IBMの製品計画はここを参照。筆者は以前のblogで以下のように述べている。

ところで、IBMはどうだろうか。IonQに比較すると随分詳細なプランをレイヤーごとに示している。分野ごとに見ると2020年から2023年までは、algorithmの開発という点では、自然科学(量子化学計算を含む)、金融、最適化、機械学習に重点を置いている。それ以降はその改善である。各々の分野の順番ははっきりとつけてはいない。どちらにしても、両社とも全く同じ分野に重きを置いている。IonQがはっきりとプライオリティを設定している反面IBMがそうしていないのは、IonQがスタートアップで人材や資金をIBMほど同時に複数の分野面に一時に投下できないことが大きな理由であろう。また、当然であるが、後に延ばされている分野・機能はそれだけ開発に時間を要するということだろう。

筆者のよろずQCのZen問答: 世界規模でみた現在の量子コンピューター市場を端的にまとめる (その3-1:ソフト)より

感想

色々と総合すると、ここ3年程度はIon Trap型が大きく前進して、FTQCに近づくため、Hybridでしか稼働できなかった複数のalgorithmがFTQCように改善されて行き、それがある程度のレベルまで達するというのがかなり当たっているのだろう。特に、暗号に関して一時大騒ぎされた既存の暗号が短時間で破られとう恐怖がそんなに遠い時期(例えば、5-10年で)でなく起こりうる可能性が出てきたことは、特記に値する。

そうだ、2024年程度なら、筆者はまだなんとかついて行ける。と決意を新たにするのであった。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です