よろずQCのZen問答: IonQ イオントラップ型 QC- 初の量子コンピュータ主体の会社の上場 -その1

2015年以降、超電導型のQCがIBMGoogleから発表されて、実機も使用することができる。それまでは、実機が存在しなかったので、programmingは紙の上でのみ行われていた。ちなみに、筆者は電気工学科だったが、programming演習というのがあって、Fortanのprogramを紙の上で書いた。隣の情報学科はそのまん前にある電子計算機センターで実際にprogramを書いて実行していた。何せ、受験する際に情報工学が何か分からなくて電気にしたという昔話。時は流れ、少年老いやすく学なりがたし。いかん、いかん、無駄口が多い。もっともこのblogは技術的な聴衆を対象にしていないのでQCで味付けした娯楽の読み物として認識して頂ければ、幸い。

研究者には前から知られていたのだろうが、2020年頃になってイオントラップ型の実機が利用可能になってきた。主に大企業のHoneywellとベンチャーのIonQが実機を提供している。ちなみに大きな括りではどちらの会社もイオントラップ型だが、全く同じ形式ではない。が、ここでは詳細は述べない。この方式で、多くの注目を集めているのがIonQだ。これに関しても湊氏ブログビデオを参考に筆者が他でも調べて情報をもとに書いてみる。

IonQの提供する製品はハードもので、複雑で規模の大きいものを提供するベンチャー企業は必要とする投資額も大きくVCは嫌がる傾向がある。それにも関わらず、上場前にも関わらず$80 Millionの投資を集めていた。

このブログの性格上、技術的な説明は最小限にする。Blueqatの湊氏の説明をそのまま持ってくると、イオントラップ型QCは、

イオントラップは原子をイオン化したものにレーザーを打つもの

4つのハード、4つのソフト、4つのクラウドより

このIonQが、ブログを書く上で美味しいのは、以下の理由で興味のあるネタ満載だからだ。

  1. 大学の研究者がfounderのお話
  2. Ion Trapped 型QC
  3. FTQCに近づくNISQ
  4. 空箱上場

1. 大学の研究者がfounderのお話

過去にも大学の研究者が会社を起こした話は米国には一杯あって珍しいことではない。量子コンピュータに限れば、日本でも大阪大学の藤井先生の研究室からスピンオフしたQunasys東北大学の大関先生の研究室からスピンアウトしたsigma-iがある。

IonQの二人の創始者はどちらも、Duke大学の先生で50台半ばJungsang Kim教授は韓国ソウル出身、1999年にStanford大学で物理で博士を取得後、Bell研究所を経て、2004年にDuke 大学に助教授として赴任し、准教授を経て2013年より現職の教授。2004年より量子コンピュータの研究するQuantum Information Lab,を設置した。その成果をDukeが認めて、DukeにQC Centerを設立、以後のDukeでのQCの動きに大きな影響を与えている。現在のIonQでのタイトルはCTOである。

Jungsang Kim 教授 (出典:Duke 大学)

Christopher Monroe教授は はMITを経てColorado大学で、後にノーベル賞を授与されたCarl Wieman博士の元で、1992年に物理で博士号を取得。National Institute of Standards and Technology (NIST)Michigan 大学を経て2007年よりMaryland大学の教授で、2021年1月にMaryland 大学からDuke大学に移籍した。現在のIonQでのタイトルはChief Scientistであるが2018年から約1年間はCEOを務めた。スタートアップで、会社が軌道に乗るまで創始者がCEOを務めることはよくある。2019年5月より、Peter Chapman氏がIonQのCEOである。

Christopher Monroe教授 (出典:Duke 大学
Peter Chapman氏 (出典; crunchbase.com)

Kim/Monroeの両人は2013年頃にIARPAからのグラントで協業したことから、以後も協業することになり、2015年にIonQを共同創始した。創始場所は、2015年にMaryland大学の近くで現在も本社はそこにある。最初のVCによる投資は2016年で有名なVC(Venture Capitalist)のNEA(New Enterprise Associates)の2Million ドルで、そのNEAの出資担当者が46歳で急死するという悲報もあった。上場に至るまでに$80Mの投資を受けている。最先端の技術に大手のVCやCorporate Ventureの大金が結びついた結果であった。二人のうち、Kimは情報よりでMonroeはコアの方をを主に受け持つ。

こう書くと、簡単なようだが、スタートアップをやった経験から言うと、お互い大学の先生として授業や生徒の指導などフルに仕事をした上に会社を設立し、役割分担を決め資金や大学との知的財産の権利等の交渉など非常に大変であったろう。また、スタートアップが失敗する理由の1つに創始者同士の相性もあり、多くのスタートアップが人間関係で失敗する。これは、筆者が経験済み。KimとMonroeは共に相手を尊敬できる人達なんだろう。そして、QCへの情熱が強くて。多くの困難を克服できたのだろう。共同創始者の成功例では、HewlettとPackardの例が挙げられる。Hewlettが技術担当で、Packaradがビジネス担当であった。Packardが後に述べたところでは、意見の不一致は一度きりだったそうだ。筆者は、過去の失敗もあって、友人と共に会社をやるのは、あまり気が進まない。失敗した時、ビジネスも友人も失う心配があるからだ。

Duke大学の記事によれば、両人はIonQで同僚であると同時にDuke大学のThe DQC, Duke Quantum Center (2021年3月に完成)で多くの研究者と共に研究に勤しんでいる。このQuantum Centerはアメリカ政府のNational Quantum Initiative からの約115億円のグラントが使われている。このグラントはDukeを含む5つのセンターに寄与された。

Kimが2004年から始めたQCの研究がDukeの大学の方向性と一致、DukeはQCの領域で研究を活動化させるため、他の大学から数人をリクルートした。そのうちの一人のKenneth BrownはIonQのadvisorとして参加している。Brownはこの二人との共著のIon trapの論文も執筆している。BrownはGeorgia Techから移籍した。その他にはIman MarvianMarko CetinaCrystal Noelなどだ。

左から、Iman Marvian、Jungsang KimとKenneth Brown (出典: Duke 大学の記事)

その2に続く