よろずQCのZen問答: IonQ イオントラップ型QC- 初の量子コンピューター主体の会社の上場-その2
イオントラップ型QCのIonQのその二である。その1はここから。。。
Ion Trapped 型QC
いくら技術的なところはできるだけ端折るにしても、少し位は説明が必要だろう。但し、このblogの対象者は技術者ではないので、触りだけ。IonQは自社の記事でこう説明している。
中学の理科で習ったように、イオンは原子に余分な電子を与えて負の電荷を持つようにしたものか、電子を取り去って正の電荷を持つようにしたものだ。IonQの場合のイオンはイッテルビウム原子(ytterbium、原子番号70)から電子を取り除き正の電荷を持つようにした。そのイオンを上に示した真空にした容器のチップの空中に3次元的に電磁気の力で並べて、量子ビット(qubit)として使用する。操作は、レーザーを当てることで行う。IonQのビデオでも強調されていたが、1つ1つのqubitは自然界の原子(イオン)であり、全てが均一で同じである。他の手法は人工的に作られたものを使用するので、必ずしも均一ではなく、そこにエラーが入り込む余地があるとIonQは主張している。
IonQの今後の製品計画は、qubit数を増加するのは当然であるが、エラーを修正できるようにして安定性を高めることである。そのためには、複数のqubitをまとめて安定性を保持できる1qubitを生成するようにしてある。現在は11 qubitだが、今後32 ビット版を予定している。その他、IonQの投資家用プレゼン資料では、コアとサーバーそのものの小型化を謳っている。コアの小型化は次のように年毎に表されている。灰色の部分がコアの大きさに対応して、手との大きさが比較できる。
更にサーバーに関しては、小型化は以下のようだ。
この小型化で、計画通りであれば、2023年にはデータセンターに設置できるラック型が完成することになる。
因みに、IonQのハードにはAWSとMicrosoft Azureのcloudを介してアクセスできる。
3. FTQCへ近づくNISQ
どこまでがNISQで、どこまでやればFTQC (エラー修正が自動で行われる汎用量子コンピュータ)になるかはっきりした定義はない。また、同じNISQであっても、それぞれのQCの客観的な評価ができる指標があるわけでもないので、どちらがFTQCにより近いのかはっきりしない。
比較対象になるもので一番簡単に思いつくものは、量子ビット(qubit)の数だが、現在のコンピュータのようにビット数が多ければそれだけ、計算力が大きいのだろうか。しかし、よく考えれば、それぞれのビットの質が悪ければ、数が多くても全体としては意味がない。これに関連して、ビット数よりもっとハードに近いところでの懸案は、それぞれのビットが量子状態を保つことのできる時間であるdecoherene time だ。これに関しては、IBM(超電導方式)などは200ナノ秒(10の-9乗) と発表している(進歩が早いので、ある時点の数字、実際の数字よりオーダーが重要)。IonQによれば、イオントラップ型だと、秒から分のオーダー、シリコンなどのsolid state方式だとナノ秒からミリ秒のオーダーだ。これに関しては、最近の大きなニュースとしては、イギリスのスタートアップのQuantum Motionは、シリコンベースの方式だけど、decoherence timeで9秒を記録した。実験室での結果であることを考慮しても、これは大変意義のある結果だ。量子状態を維持するためには、環境からの影響を最小限にするために、通常温度絶対ゼロに近く保つ必要があり、そのために温度を維持する仕組みが大規模になってしまう。常温でかつサイズを小さくできれば、よりFTQCに近づけることができるだろう。
この他もっと複雑な指標がIBMから提案されている。それは、量子ボリューム (quantum volume)と呼ばれている。IonQはIBMの量子ボリュームに対して、アルゴリズミックqubit (algorithmic qubit) を提唱している。IonQでは、これに先立ち、幾つかの評価項目をあげている。
1. decoherence time: (既に述べた、qubitが必要な量子状態を保てる時間)
2. qubit間の接続: (イオントラップ型では、全てのqubitが他の全部のqubitと直で接続しており、オーバーヘッドを抑え、エラーも減少させることができる)
3. それぞれのqubitの均一性: (均一性がないとエラーの元になる。イオンを使うイオントラップ型は問題がない)
4. どれだけのゲートを実際に適用できるか:(ゲートそのものが完全でない。ゲートのエラー率をfidelityと呼ぶ。これは、1/エラー率で定義される)
5. 最後にqubitの数:(既に議論済み)
Quantum Computing 101: Introduction, Evaluation, and Applicationsより
ベンダーから独立したQCの評価指標はないのであろうか。量子ボリュームはQC市場のデファクトスタンダードになっている(と少なくともIBMは言ってる)。また、最近DARPAはQCの客観的な性能比較をするための指標を設定することを発表した。こういう動きも今QCはNISQからFTQCに向かって確実に動き出している証拠ではなかろうか。それぞれの指標の詳細は今の段階ではこのblogでは触れずに、もう少し指標そのものの定義や検証が進んだ段階で改めて触れていきたい。
これに応じてか、湊氏はビデオを含む数カ所で、IonQはエラー修正などの機能も含み、FTQCへの道を開いたのではないかと述べている。
4. 空箱上場
一般的にVC(Venture Capitalist) が投資を行う時は、その分野の市場が急上昇しており、確固たる技術があり、優秀でグループとして機能しているチームが揃っていたり、過度にリスクの高くないものに投資する。ハードものは一般的にソフトものより投資という面では不利なことも多い。複雑なハードの構築には時間も資金もかかり、リスクも大きいし、そのためコストもソフトに比較すれば断トツに大きい。また、投資が数年(3−5年)のオーダーで回収できないものには、投資家は群がらない。ビジネスプランを書いた経験から言うと、数年のうちになんらかの明るい兆しを示さないと投資を受けるのは困難だ。しかし、例えば5年後以降に好ましい収支を示しても説得力がない。なぜなら、収支のプロジェクションはせいぜい5年まで、それ以降は普通予想不能である。5年以降を強調して予想している段階でそのプランには信頼性がない。
量子コンピュータの進捗は誰に聞くかによっても変わるが、一般的に10年のスパンと言われている。たとえそれが10年であっても、その間に量子コンピュータにとって変わる技術の発明などあるかもしれない。せいぜい2−3年で何かの具体的な結果が出ないようなものに誰も投資はしない。
さはさりながら、将来性があるのに短期間に結果が出ないと言う理由で投資を受けられないのは、あまりにも残念と言うことで新たな方策が取られた。将来性がある技術を持っているが資金が足りない会社と資金は集まっているが、何をするのか決まっていない会社が合併すれば、鬼に金棒だ。
QCは将来性があり、国策につながる技術であり、今すぐに結果が出ないが是非とも支援したい技術である。IonQに限って言えば、その投資家にはCorporate Venture(HP、Google, Amazon、SamSung、Bosch、Airbus、Lockheed)が数多く含まれのはそれを反映しているのだろう。
一般的に株式の上場は最初に投資を受けながら、ビジネスを成長させて行き、数々の条件を越えなければ起こり得ない。ところが、必要があれば、方策はあるようで、まさに上で述べた鬼に金棒の方式で、IonQが上場した。と言うのは、あまり正しくない。最初に上場して資金のある会社とIonQが合併して、合併後の会社がIonQの名前を名乗るということになった。詳細はこのblogの範囲を超えるので、これ以上は述べない。しかし、これで日本円で2,000億円程度を確保したIonQは資金繰りに悩むことなく技術の開発と市場の開拓に向かえる。
IonQに関しては、技術、製品、人、大学、関連する会社、投資家と美味しいネタがゴロゴロしている。しかし、掘り下げすぎるといつまでもこのblog終わらない。この辺で、control C!!