Q-CTRL, CEOのMichael Biercuk教授はError SuppressionこそFTQCへの道だと主張

Q2B 東京ではたくさんのセッションがあった。たくさん聞いていると疲れてきていい加減に聞く傾向があるのは仕方がない。なんせ、齢が古希を超えている。「お年寄りは大切にしましょう。」

ところが、Biercuk教授の登壇はインパクトがあった、そのガタイの良さもさることながら、そのプレゼンのメッセージが余計なことはなく、ビンビンと頭に入ってきた。これは聞かなければならないという気にさせられて一気に目が覚めた。技術の専門家というのは、例外を除けば話が面白くない。つまり、同程度の理解を持っていないと難しいことをガンガン並べられて、話について行けなくなる傾向がある。この人は量子力学やQCの専門家なのに、素人に毛の生えた筆者もグングン引き込まれた。マーケティングもうまいなあ。。。

さて、QCでエラー処理の手法であるerror-correction、error-mitigationとerror suppressionの差はなんだろう。Biercuk教授の講演を聞いた。今まで、大してエラー問題を詳しく見ずに、FTQCには自動エラー訂正が必要だと書いてきた。ちょうど良い、ここで自動エラー訂正を少し深掘りしてみるか。(といっても、いつもの様に、途中で逃げ出す可能性ありだが)。

あちこちに何Qubitあったらまともな計算ができるのか。そのために必要な物理Qubitと論理Qubitの数はいくらだろう。どこかで、読んだデータによると、信頼性のある100Qubit(論理Qubit)が必要で、信頼できる1論理Qubitには、1万の物理Qubitが必要だと。つまり、全部で100万Qubitが居るわけだ。PsiQuantum社が100万Qubitを実装しようとしているのとはまた話が違う。PsiQuantumはNISQは時間の無駄で最初からFTQCを目指しており、Psiquantumは信頼性のあるQubitが100万なければQCの応用は話にならんと言ってる。

Biercuk教授は現在The University of SydneyのProfessor of Quantum Physics & Quantum Technologyを続けながら、Q-CTRLの創始者・CEOだ。大学からのspin-offだと言えるだろう。最初の印象はえらく、ガタイの良い人だなあという感じ。アメリカ人だが、オーストラリアの大学で教鞭をとる傍ら、Q-CTRLのCEOを兼務。Q-CTRLの使命はこの1分程度のビデオにまとめられている。最近の雑誌のインタビューで色々と面白い事実がわかる。

Biercuk教授の経歴

ハーバード大学で物理学の博士号を取得した後、DARPA (国防高等研究計画局) の技術コンサルタントとして勤務。 彼はノーベル賞受賞者で物理学者のデビッド・ワインランドと国立標準技術研究所のプロジェクトで協力した。 シドニー大学で量子物理学および量子技術の教授として勤務する傍ら、2017年にQ-CTRLを設立し、CEOに就任(現任)。

この記事から抜粋。なお、wikiにも載っている。

インタービュー記事まとめ

インタビューの記事の面白いところだけ、取り出してみた。

  • 物理学者で、量子物理と量子技術の専門家。専門は量子制御工学。2010年よりその分野を研究。QCの研究は今大学・研究機関から企業に移動しているように感じる。
  • 量子制御工学は民間企業はの動きと同じスピードで進むべきだし、民間の投資が必要。大学だけではできることに限界があり、それでQ-CTRLを2017年に創始。創始から3ヶ月で投資を獲得したことで、必要な技術だと確信。
  • 売りは、「quantum control engineering(量子制御工学)」目的は「量子技術を、簡単に使えて、役立つものにすること。」今のQCの最大の問題はディコーヒアレンスとエラー。
  • 2018年以降IBMとパートナーシップを結んでいる。その割にはっきりIBMの手法を批判している。どうも、インタービューを見る限り、IBMの手法には限界があるので、Q-CTRLの技術でそれを補うというニュアンスのようだ。
  • 最近Series Bのファンディングで現在までに累積で約$70million(約90億円)の投資。資金は製品の開発とその完成度を上げるために費やされている。インタビューの時期(2023年5月)には製品は実際に役立つレベルに達したと確信。
  • 日本市場は、QCの基礎研究が確立されている。現在、日本でもQCの焦点は大学などの研究機関から民間企業へと転換してきている。その傾向はQ-CTRLにとってはチャンスだと感じる。特にロジスティクス、バイオ技術、金融、化学と鉱業の業界のQCのearly adopterとは話をしたい。また日本の投資家とも話がしたい。

講演するBiercuk教授

では、講演そのものについて、まず最初に説明されたのが、BCG(筆者のブログを参照)の将来のQCがもたらすであろう経済への影響。すごい額になると予測されている。しかし、それが可能になるのためには、NISQがFTQCになる必要がある。そのためには自動でエラーが処理されることが必須という論旨。これに文句をつける人はいまい。そのためのQ-CTRLの解は以下だというもの。

つまり、ハードウエアとフレームワークの間にQ-CTRLのソフトウエア層を埋め込むというわけだ。

もう少し、観点を変えたスライドを見ると概略がよくわかる。

真ん中の丸がQ-CTRLの層

実際にたくさんの会社に使用されていると述べた後、実際にQCシステムにQ-CTRL層が組み込まれたのと組み込まれていないもので、Grover’s Algorithm(参考筆者のブログ)を実行した結果を示した。

Groverのアルゴリズムはリストの中で、探しているものを古典アルゴリズムより速く正しく検索できるものだが、この例だと上のグラフでは、検索が理想的なQCで実行されたとすれば、正しい答えのところ一番確率が高くなって、そうでないところは低い確率になっているはずである。つまり、一番大きな振幅のところが正しい場所だ。Q-CTRLの層がない下側の左のグラフ、確率がグチャグチャでは全く答えがはっきりしない。それに対して、下側の右のグラフはQ-CTRL層を搭載した場合の答えを示している。もちろん、20分ほどの間の講演で、本当かの判断はできないが、本当であるとするとなかなか凄いことだ。(もっとも、疑り深い深い筆者のこと、まず本当の結果かと疑う。本当でも、この特別の場合に特化して最適化したのかと)。

Q-CTRL層には名前があってFire Opalという。そのアーキテクチャーは以下の通り。

Biercuk教授はQCに於けるエラー処理に関して3つのカテゴリーを述べた。次のスライドを参照。

Biercuk教授による、エラー訂正(error correction)、エラー軽減(error mitigation)、エラー抑制(error suppression)の関係

この3つはどう違うのか。(ところで、このエラー処理に関する語彙を見た以上、今後ブログでは、FTQCへの道で、一般にエラーの話をするときは、error correction(エラー訂正)と言わずにerror handling(エラー処理)ということにする。)

IBMはこの3つの違いに関してブログで説明している。

IBMはブログで、以下の様に断った後で、3つの違いを述べている。

  • エラー処理を3つに分けているが業界でもその定義に色々の意見があり必ずしも全員が一致したものではない。
  • それぞれのカテゴリーの処理の差も微妙で、必ずしもきっちりとした線が引けるわけではない。

エラー抑制error suppression) は、エラー処理の最も基本的なレベルです。 エラー抑制とは、望ましくない影響に関する知識を使用して、その影響による潜在的な影響を予測して回避できるカスタマイズを導入する手法を指す。 ほとんどの場合、エラー抑制について話すときは、ハードウェアに最も近いレベルでエラーを処理することについて話す。 これらの手法はユーザーには気づかれないことが多く、プロセッサが確実に望ましい結果を返すように制御信号を変更または追加することで構成される。

エラー軽減(error mitigation)では、回路のアンサンブルの出力を使用して、期待値を推定する際のノイズの影響を軽減または排除する。 IBMは、エラーの軽減が、短期的に有用な量子コンピューターを実現するための鍵であると考えている。例は、Probabilistic error cancellation、Zero-noise extrapolation (ZNE) 、M3やTwirled Readout Error eXtinction (TREX)などだ。それぞれの方式は専門的過ぎるので、ここではこれ以上触れない。IBMがエラー軽減に力を入れてるのは、これからも良くわかる。「IBMのチームは、さまざまなエラー軽減手法のポートフォリオを調査し、開発しています。」と述べている。overheadはあるけれど、一番有効だと主張している。

エラー訂正(error correction)は、我々が究極の目標であるFTQCを達成するための手段であり、冗長性を構築することで、たとえいくつかの量子ビットでエラーが発生したとしても、システムはプロセッサ上で実行しようとするすべてに対して正確な答えを返す。 エラー訂正は、エラーが発生したかどうかをチェックできるように、情報が冗長性を持ってエンコードされる古典的なコンピューティングの標準的な技術だ。

注:このコラムは、 IBMのブログ(原文英語)より引用したパラグラフの一部をGoogle Translateで日本語にしたものを筆者の意見も含めて編集

Perprexityにも聞いてみた。

Perprexity.aiはChatGPTの競合。何故、Perprexity.aiかというと、筆者のMacの上でインストールしたEdgeがinvokeできないからだ。それを解決する方法がいくつか上がっているが、試しでもダメだった。そんじゃ、めんどくさいので、Perprexity.ai。答えは、以下の通り。原文は質問も答えも英文。それをGoogle Translateで日本語にした。フォーマット的には、筆者が編集。

  • エラー抑制(error suppression)は、決定論的エラー抑制または動的エラー抑制とも呼ばれ、ハードウェア エラーの可能性を減らす一連の技術で構成される。 量子コンピューターの操作に使用されるネイティブの量子ファームウェアに組み込むことも、量子コンピューターのエンドユーザーに完全に自動化されたワークフローを提供するように構成することもできる。 エラー抑制は、追加のオーバーヘッドを発生させずにアルゴリズムの実行ごとにエラーを削減することで、量子アルゴリズムのパフォーマンスを向上させることを目的としている。
  • エラー軽減(error mitigation)とは、QCアルゴリズムで発生するエラーを削減または軽減することを目的とした技術を指します。 これには、回路のアンサンブルの出力を使用して、期待値を推定する際のノイズの影響を軽減または排除することが含まれる。 エラー軽減は、ノイズとエラーの影響を考慮して軽減することにより、量子計算の精度を向上させることに重点を置いている。
  • エラー訂正:(error correction)は、FTQCを実現するために使用される技術だ。 これには、システムに冗長性を構築することが含まれる。これにより、少数の量子ビットでエラーが発生した場合でも、システムは依然として正確な応答を返すことができる。 エラー訂正は、古典的なコンピューティングで使用されるエラー訂正技術に似ており、情報はエラーをチェックするために冗長性を持ってエンコードされる。

まとめに、こう書いている。

要約すると、エラー訂正は冗長性によるFTQCの実現に重点を置き、エラー軽減は量子計算におけるノイズとエラーの影響を軽減することを目的とし、エラー抑制はハードウェア エラーの可能性を低減して量子アルゴリズムのパフォーマンスを向上させることに重点を置いている。

注:Perplexity.aiに英語で質問して、回答をGoogle Translateで日本語にして、更に筆者が編集した。

これを読むと、3つを併用すればいいじゃんと思うけど。Biercuk教授は多くの競合の中からIBMを名指しで、error mitigationはoverheadが多くてだめだ、error suppressionが正しいと強調していた。しかし、講演の後のQ&Aで実際には全ての方式を併用した方が良いと答えていた。少し、「わけわかめ」状態だ。

Q2Bでは、数社がエラー処理の話をしていた。このブログの情報をもとにその会社の取り組みもブログにしてみよう。