よろずQCのZen問答:量子コンピュータ市場は2040年までに年間94兆円規模に(?)概要編

ここ2週間ばかり量子コンピュータ(QC)に対する否定的な記事や投稿を多く見て、QCが本当は何者で、なんの役に立つのか、もっと基本的に理解しようとしていた矢先、米国の著名なBoston Consulting Group (BCG)が次のようなPress Releaseを出した。「Quantum Computing Set to Transform Multiple Industries, Create Up to $850 Billion in Annual Value by 2040, Latest Estimates Show」そして詳細はBCGのレポート「What Happens When ‘If’ Turns to ‘When’ in Quantum Computing?」に記載されている。

表題だけ読むと、QCの市場は2040年までには年間850Bドル規模に達すると。めんどくさいので$1 = 110円で計算すると93.5兆円規模だ。ちょっと待てよ。この予測は微妙だ。2040年と言えば、今から約20年後だ。希望が持てる方向から見れば、かなり未来が絞り込まれたようで、今まで言われてきた「数十年後」ではなく、20年という時期が特定された。しかしだ、失望の方から見ると、「ええ、20年もかかるの」というのが正直なところだ。筆者などは、20年も経てば、地球上に存在しているか怪しいし、たとえ存在していても、まともな精神活動はしていまい。大阪大学の藤井先生はまだ30代なんで、20年経ってもまだまだ働き盛り。

さて、Press Releaseをざっと見てみよう。最初にこの94兆円の内訳を見てみると4つの大きな分野があるのがわかる。(下に示すBCGの表を参照)それは、

  1. Simulation(19.3 – 36兆円)
  2. 機械学習(ML)(10.5 – 28兆円)
  3. 最適化 (12 – 23兆円)
  4. 暗号(4-9兆円)
BCGのPress Releaseより

94兆円というのは、それぞれの最高値の合計で、最小値の合計は約50兆円だ。

後は、箇条書きで

  • 2017年までのQCへの投資は600億円程度。次の三年で2倍になった。(Gartner社調べ)
  • 企業は自社でQCに投資していた会社は2018年には全体の1%であったが、五年後の2023年には20%に増加する。(Gartner社調べ)
  • IBM(超電導) Google(超電導ーー>IonQ)Honeywell(Ion Trap型), IonQ(Ion Trap型) PsiQuantum(silicon photonic)などの会社は2030年頃にはQCのハードをなんとか出来そうだという感じが濃厚で、政府や企業はQCの本格的な使用を用意をしなければならない。
  • これを鑑みてBCGは2040年までにQCの市場は94兆円規模になると予想している。
  • 大部分の投資はハードに投下される。qubitの会社は高価で困難であるからだ。2020年の全体の投資額は$675Mドル(約、743億円)でそのうちハードには$528Mドル(約、580億円)でハードが占める割合は約78%。前年は、総額$211Mドル(約232億円)で2019年から1年間で約3.2倍になっている。

BCGの予測では

  • 2021年は総額$800Mドル(約880億円)が投資されると予想している。
  • 更に、競争はこの十年に限れば5社に絞られる、1) IBM, 2) Google, 3) Honeywell, 4) Amazon AWS(ハードを開発せず、その上のmiddleware) , 5) IonQ。(このリストはblueqat 湊氏も同じ意見だ)。それぞれは、性能やスケーラビリティの点で短長混在しており、はっきりした甲乙が付け難い。湊氏はこのほかに、シリコンベースや光も視野に入ってくると述べている。上のPsiQuantum等。
  • 2年前のリサーチに比較して、企業のQCへの熱が高まっている。政府関係や機関投資家に続き企業の参画が進んでいる。ここの領域で熱が高まれば、時は熟したと言える。
  • QCの分野はハードだけでなくソフトも重要で、そのほかにuse caseも重要で、QCが解決できる問題を正確に把握することが必要だ。(筆者独り言:そのうちに、初心に戻って、QCとは何か、QCは本当に万能かというblogを書くつもり)こういうことは、製薬や金融サービスだけでなくエネルギーや小売販売などの産業でも怒っている。QCはあるもの買ってきて簡単に適用できるというものではない。visionとinnovationを生み出す努力が必要だ。

このPress Releaseで触れられているレポートは後日のblogで。