Q2B Tokyo 2023: 自動車業界とQCのパネル

先駆者である会社の皆さんの話を聞くのは非常に面白い。4つばかり、産業別のパネルがあった。金融パネルについては既にブログで解説した。

パネリスト、左から、井出貴範氏、佐藤弘一氏、大庭伸子氏、寺園 知広氏(モデレータ)

各社のビジネスは、アイシンは自動車部品、ブリヂストンはタイヤ、トヨタは自動車製造(OEM)だ。同じ自動車業界とはいえそれぞれ微妙にビジネスのニーズが異なり、それに従ってQCへの入り方や取り組みが微妙に異なる。

(余談モード オン)舞台裏を暴露すると、この手のパネルはとても聞きながらメモを取ったらなどはできない。だいたい、メモを後で見ても何が書いてあるかわからない。まして、プロのライターのように聞きながら記事を書くようなことはできない。米国で似たようなことをやっていた時、メディア席に座ってレコーダー片手に時々安いデジタルカメラでパチパチと写真を撮る筆者と違い、プロのライター5-10人はいた(コンファレンスによるが)。その全員が機関銃のようにキーをバリバリと叩き、横でプロのカメラマンが高いカメラで写真をばちばち。他で見てた人は「あの場違いのおっさん、何しとるんや」とうつっただろう。幸いかどうか知らないが、このコンファレンスではそういう人々はライターとカメラマンのペアーが1組だけだった。どうでも良いけど、40分の録音を聞いてそれをまとめて書くのはめんどくさい(余談モード オフ)

質問と答え

以下は、誰が何を言ったかは適当に誤魔化して(というか返答内容からどの会社の人が言ったかはだいたい自明だ)、モデレータの質問を再現して、どのような返答があったという風に書く。

質問−1:今何やってる。

QCアプリの開発、量子化学計算をやってたので、QCに興味が移行、物作りや材料開発にどのようにQCが応用できるかを研究

質問−2:どんな、use case?

人と環境に優しい物流最適化(人の熟練や勘に頼らずQCで)、2050年のCarbon Neutral化を見据えたタイヤの開発(生産に関連する多くのパラメータの莫大な組み合わせをの最適化の処理)、 材料開発に応用(最適化)ものづくり(シミュレーション、偏微分方程式、→設計・開発、CAE)

質問−3:QC単独で問題は解けるのか? (筆者:言外に古典とのハイブリッドがいるじゃろ?)

古典で培った知識を応用してHybridで行くのが良い。QCにはまだ課題満載(どのQubit形式を選択?)、計算力超巨大のQCと小回りの聞く古典の組み合わせが最適(現在QMLを検討)。量子化学計算でQCと古典を適材適所で使用する際、2つの間のデータ通信が問題になってくる。FTQCが実現していない現在古典と組み合わせで問題解決(筆者:VQE・QAOA)。古典データをQCように変換がうまく行くのか?

質問−4:実際にQCをビジネスに応用できるまでのタイムラインはどう見てるのか。

エラー耐性(FTQC、2030年?2040年?)の問題が解決されなければならない。応用分野によって異なるのではないか。自分のuse caseに対して、logical Qubitがどの位必要なのか、それがいつ達成されるのか。量子化学計算分野で、ブリヂストンが持っているようなuse case ならば40-50のlogical qubitで十分だろう。

質問−5:FTQC到達までが2030年とも2040年とも言われるが、そういった変動する中でどうやってスケジュールや計画を立てるのか。

実際にQCが使い物になってから使うのでは、競争に遅れをとる。そのため、今のうちに準備をしておくのが肝要。現在FTQCまでが後10年(2030年)とも20年(2040年)とも言われるが、来年になったら、後5年になってるかも知れず、今の段階からQCのEcoSystemにきっちり入っておいて、FTQCの開発時期が変動しても、十分についていけるようにしたい。理論だけではなくて、実際に実機に触れてみないと本当の感覚はわからない。でなと、FTQCが現実のものとなった時、簡単に使いこなせるようにはならない。

質問−6:実際にQCを研究し始めた理由。

バックグラウンドが数学や機械学習で、その延長で量子が視界に入ってきた。また、既に量子化学計算を行なっているが、今の計算機では多くの制約があり、それをQCで克服したかったが、量子人材でなかったので、Qparcに参加して多くを学んだ。これから、QCにとかかろうと思うなら、そのようなQC関連のコンソーシアムに参加するのを勧める。

Qparcとは

2020年に東京で設立されたQPARCは、研究者や
業界の専門家が協力し合うことを目的とした企業
コミュニティです。量子コンピュータに関する最
新の動向を把握し、産業への応用を発掘すること
を目指しています。

QPARCでは、量子コンピュータの産業への応用や
アルゴリズムを開発する技術者の育成に重点を置
いています。量子コンピュータのハードウェアが
完成した際に、いち早く量子技術を産業課題の解
決に取り入れられるよう、準備をお手伝いします。

Qparcのウエブサイトから一部引用

Qparc (Quantum Practical Application Research Communt)はQunasysが中心となって設立

質問−7:QCを社内で推し進める体制

アイシン”物理・数学・情報の背景を持つ人が量子に参入しやすいようだ。QCWareなどのQC業界のトップと協業することで学ぶことが多いし、スピードが増す。ブリヂストン”まだ正式な組織になっていないが、材料関係で物理の人材が多く、勉強会を開いてQCを学んだり、スタートアップと議論してUse Caseの具体化を検討中。トヨタ:材料や製造の関係で古典で多くの手法を駆使してきた。古典の限界を感じて、その延長としてQCを考慮。QC専門の組織を構築(CAEや機械学習や量子化学計算の専門家を結集)

質問−8:人材開発、スタートアップとの協業のメリット

アイシン:必要な知識が用意に入手できてスピードが上がる。ブリヂストン:関連QCの集まりで取り組みを話して、新たな人材が参加することを歓迎。トヨタ:スタートアップからの知識やコンソーシアム(Qparc)の勉強会は非常に有益。大学との共同研究や実機を使えるQIIやKQCC(慶応義塾大学量子コンピューティングセンター)での共同研究が有意義。

慶応量子コンピューティングセンター

センター概要

量子コンピュータとは、”量子力学的な効果を用いて行う複雑な計算”(量子コンピューティング)を実現するデバイスである。素因数分解や最適化といった問題では、計算時間(ステップ数)が問題の規模に対して指数関数的に伸びるものがあり、それらは従来コンピュータでは計算不可能な問題とされる。量子コンピューティングはこれらの計算困難な問題を解決することが期待されており、それを実現する手法の開発が望まれている。そこで、本センターでは、社会や産業界の発展に資する量子コンピュータで解くべき問題を特定し、その目的に向けたソフトとハードを開発することを目的とする。とくに、国に加えて、複数の民間企業が出資する研究拠点を整備し、産業界や一般社会に存在する問題を対象とした量子コンピューティングの道を切り拓くことを目指す。

慶応大学のウエブサイトから一部引用

考察

同じ自動車業界といっても、自動部品、タイヤ、自動車製造とフォーカスの場所が違う。この三人の話を聞いていて、全くの素人ではなく、それぞれの専門分野で古典でできなくなった時点でQCへの期待からQCに飛び込んでいる。最初は、色々と苦労しながら、スタートアップや大学・研究機関、コンソーシアムに参加しながら、知識や業界内でのコンタクトを増やし、自分たちが必要とするUse Caseを追求して行ってる。トヨタのような大企業だとQCに特化した組織を構築して動き出しているところもあれば、まだ会社上層部を説得できていない段階のブリジストンの様なところもある。

しかし、三人が主張するように、FTQCが現実のものとなって今日から使えるとなっても、それまでの絶え間ぬ努力と理解がなければ、おいそれと使えるものではない。あと10年か20年かわからないが、それでも今からQCを始めるのが必要だ。