Q2B Tokyo 2023: McKinseyのQuantum Technology Monitor

2021年にBoston Consulting Group(BCG)の長い記事を解説した。その時書いたブログ。今度はMcKinsey社が毎年発表しているQuantum Technology Monitorに関しての講演がQ2B Tokyoであったので参加した。

スピーカはNiko Mohr氏はドイツのベースでMcKinsey & CompanyExpert Partnerあり、同時に独のRegensburg大学の教授でもある。大学に載っている情報

講演の内容は一番最近(2023年4月)のQuantum Technology Monitorの内容を20分ほどでまとめたものだ。そのレポート(全部で54ページ)はここから読める。Webで読むなら、ここから。

Mckinseyは量子技術を、1。量子計算(QC)、2。量子通信(QComms)、3。量子センシング(QS)に分けて量子に関する3つの市場を考察している。(Q2Bのコンファレンスでも、QCOmmsやQSのセッションはあったが、まだまだこれからと言うところ。だから、このブログではあまり触れない。)筆者の目的はこの講演やQuantum Technology Monitorを細かく解説するのではなく、こういったレポートのさわりを説明することで、読者が実際のレポートを読んでくれることを願ってのことだ。もとレポートやウエブは英語。

最初に、市場の概要を示した。

講演するMohr氏と市場のOverview

ここで、主な数字を見ると、

  • 現在までにスタートアップに投資された金額は6,800億ドル(約95兆円)
  • 量子技術のeosystemに含まれるスタートアップの総数は350
  • それぞれの分野でのスタートアップ: QC 233社(投資金額$4B == 56 兆円)、QComms 72社(投資金額$1B == 14兆円)、QS 23社(投資金額$0.4B==5.6 兆円)
  • 2022年に登録されたQC関連の総特許数:1,589でQC関連の発表された論文の総数:44,155
  • 2035年までに、1。化学、2。生命・化学、3。金融、4。自動車業界で、QCから派生する経済規模予想:$620B(8,700兆円) から$1,270B(17,400兆円) (ちなみに、McKinseyはこの4つが一番最初に立ち上がるQCの分野だとしている。)上の3つの分野の内訳はここでは無視。

数字が大きいので、何回も確かめたが、本当にあってる?米国の国家予算は大体$6T(Triilionは10の12乗)、兆は同じく10の12乗だ(ちなみに次の位は京でこれは10の16乗)。ドルから計算するときは、それを約100倍するから、840兆円だ。日本の国家予算は約114兆円だ。この予想と筆者の計算があってれば、そりゃ皆さん「必死のパッチ」で量子やるよね。

スタートアップへの投資額と傾向はその市場の動きを知るのに役に立つ。

この額は全世界の総額。面白いのは2022年(2,350億ドル、約33兆円)に最高になったけど、2021年(32.6兆円)と比べても1%程度しか伸びていない。また、2001年からの全投資の68%がこの二年に集中している。市場がQCが伸びるとみているのだろうか。しかし、スタートアップの数そのものは、2021年が41社新たにできたのに、2022年になるとわずか19社に減少している。どうも、投資は新たなスタートアップへ行くよりも既にビジネスを開始しているスタートアップに流れているらしい。

その理由をMcKinseyは以下のように説明している。

スタートアップ企業の設立が遅れている理由はいくつかあります。 まず、通常は学術研究に基づいて新しい会社を立ち上げる可能性が最も高い、この分野の経験豊富な人材が、すでに新興企業で働いている可能性があります。 最終的な商用実装に向けて十分に開発されたユースケースの数が限られていることも、新しい会社の設立を妨げている可能性があります。 最後に、投資家は後期段階の新興企業や規模を拡大する準備ができている若い企業への投資を好む可能性があります。

McKinseyのウエブより一部を引用、翻訳はGoogle Translate

確かに人材が限られているのは痛い!!量子力学なんちゅう訳のわからんものをやる人々はここにいる人達くらいだろう。(ちなみにここに高校・大学の同級生の名前を見つけた。)すでに、2社スタートアップを輩出してるけど、きっともっと出るだろう。

投資の話はこれくらいにして、(興味のある人はMcKinseyのレポート読んでね。)、

QCの分野でのブレークスルーはいくつか見られ、着実に前進しているのがわかる。例えば、

  • ノーベル物理学賞でQC関連が受賞
  • IBMの433Qubit QPUやXanaduのフォトニックス・ベースの量子優位性のデモとか。

しかし、特許の数や論文はの数は2021年に比べて2022年は減少している。McKinseyはその理由を今後、進歩していくに乗り越えなければならない問題が非常に困難な問題になっているからだと推測する。つまり、FTQCへの問題だ。Qubitの数、Qubitの品質その他を飛躍的に向上させなければとても今のNISQ時代を乗り越えてFTQCには到達できない。5つのQubitを開発する方法は各々問題を抱えていて(Doug Finke氏の講演を書いたブログ参照)いつFTQCに到達するのかわからない。まさに、「人に聞いていけないことは、1。年、2。収入で3。いつFTQCができるのか?」McKinseyはこの理由を次のように説明している。

  • ハードに関しては、NISQからFTQCは幾分貢献できる。
  • ソフトやAlgorithmに関しては、あまりにも2つが違いすぎるので、NISQで開発したソフトやAlgorithmをFTQCに簡単に応用できない。

人材についても触れている。2021年に比べて2022年は人材不足が幾分和らいだものの、まだ十分な人材がいない。このギャップの縮小は、大学等で量子力学やQCを専門とする学部・学科の設立などで人材が育ってきていることが原因だろう。足らない部分はQCに関連する分野からの流入で補われるのだろう。例えば、バイオ化学、化学、電子・化学工学、情報・通信技術、数学・統計や物理などだ。McKinseyによればEUはこういった人材が豊富とのこと。翻って日本はどうだろうか。

Q2B Tokyo と言うこともあってか、日本の話もいくつか紹介された。

日本は世界でQCに関して言えば、第二位だ。

論文の数では。

論文の数では第5位。中国の論文の数が一番多いが、引用回数とかを加味する(h-index)と米国の方が影響力は大きいとのことだ。

日本情報ついでに、スタートアップの数の国別比較、政府などからの補助金、VCなどの民間の投資のスライドを3つ貼っておく。全て、出典はMckinseyだ。

スタートアップの数の国別比較、出典:MckinseyのQuantum Technology Monitor (2023年4月)

スタートの数だけ見るとそれほどメチャクチャ少ないようには見えない。

政府などからの補助金の国別の比較は次のスライド

政府などからの補助金の国別の比較、出典:McKinseyのQuantum Technology Monitor (2023年4月)

VCなどの民間からの投資

VCなどの民間からの投資情報、民間からの投資は弱いが政府が援助。出典:MckinseyのQuantum Technology Monitor (2023年4月)

国産のQCが理化学研究所に設置されクラウドを介して多くの研究者や開発者に開かれていき、日本のQCはこれからだろう。