ClassiqはハイレベルのQC仕様から環境に応じて最適な解を出力する技術を提供

今QCの解は標準化されておらず、それぞれのベンダーのプラットフォーム上で実行される解はそれぞれのプラットフォーム用に開発されなければならない。もし、「ハイレベルのQC仕様から環境に応じて最適な解を自動的人間の介在を最小限にして出力」できたら、どんなに嬉しいだろうか。講演の情報以外に過去に書かれたインタービュー記事やその他の記事も追加してこのスタートアップに迫ってみる。

2021年のインタービュー

今年の1月に載ったインタビュー記事(新井 均氏による)から、面白いところを抜粋してみた。もっと良い写真も提供されている。

  • 経歴は「インテリジェンス関連の兵役に従事し、2年前に兵役を修了して、他の2名の仲間とともに、Classiq を創業。」
  • Classiqの狙い:「一言で言えば、量子アルゴリズムの設計を容易にすること」
  • 「量子アルゴリズムの開発は極めて難しく、Classiqはそのアルゴリズム開発を容易にするようなツールとなる量子スタックを提供。」
  • 「現在の量子コンピューターでは、まだまだ機械語でプログラムを組むような段階」
  • 「企業がそのアルゴリズムで実現したいこと、企業のドメイン(金融、製薬など)、そして量子計算に関する基本的な知識、があれば、そこからClassiqが量子アルゴリズムを生成できるような”スタック”を開発」

注:「 」内はインタービュー記事からの直接引用

 2022年の記事

その次の年の新井 均氏の記事から特記できるところをまとめてみた。記事は去年日本最初のQ2Bコンファレンス時点の情報をもとに書かれている。2021年と同じ内容は割愛する。

  • 「Classiq Technologiesは、2年半前の2020年4月にNir Minerbi、Amir Neveh、Yehuda Navehの3名により共同創業されたとても若い企業であるが、既に2度、総額で約$64Mの資金調達を行っている。」
  • 「創業者のNirとAmirがともにイスラエル国防軍 (IDF)のエリート教育プログラム、タルピオットの卒業生」
  • タルピオットとは「少数の才能ある若者が選抜されて3年間厳しい教育を受け、プログラム卒業後は兵役として6年間IDFで先端技術開発に従事」「次々にイノベーションを生み出す“スタートアップ大国イスラエル”の名実ともに核となる人材を育成しているプログラム」
  • 「今回Nirは、彼らのプラットフォームが特定のハードウエアに依存するのではなく、IonQやColdQuantaなどのハードウエアやAWS、Azureなどのクラウドサービスなど、様々な量子コンピューティング環境をサポートするようになったことも発表したそうだ。これにより、ハード/ソフト両輪での量子コンピューティング開発が更に進むことになるだろう。国際特許も既に25取得」

注:「 」内はインタービュー記事からの直接引用

なお、Minerbi氏は今年の講演の冒頭、東京オフィースを開設したことを発表した。

講演はClassiqのCEOのNir Minerbi氏が行った。

講演するClassiqのCEOのNir Minerbi

最初のスライドで、この時点で世界でQCのハードウエア・プラットフォームを提供する企業の一覧を提示した。

全世界の主なQCハードウエアのベンダー

Classiqはこういった異なったハードウエアの上で正しく動作する必要があり、市場調査は入念に行っているはずだ。良く名前を聞く企業、例えば、IBM、Google、Quantinuum、富士通、IonQ、Rigetti、D-Wave、ColdQuanta、Atom Computingの他にも他と毛色の異なる光子ベースのPsiQuantumやXanaduの名前も見受けられる。Classiqに限らず、QC業界のベンダーは常に市場調査、競合調査を行っているので、そのデータは非常に有益だ。

本題に入る前に、また余談。上の囲み記事にもあるように、イスラエルから発祥のスタートアップは皆、タフで優秀で物事を成し遂げようという強い意志のある人々が立ち上げている。米国にいた45年の間多くのイスラエル発のスタートアップを見てきたが、徴兵のためか軍隊経験がある人が多く、性骨が座っている。イスラエルという人口の少ない国で(したがってイスラエルだけを市場にできない)戦っていくためには、世界を相手にせねばならず、米国のコンファレンスなどには非常に積極的に参加してきたのを見ている。もちろん、米国発のスタートアップも尋常でない精神力と人材と営業・マーケティング力を持っているのは間違いない。

しかし、米国発のスタートアップは戦場はホームであり、言語、文化、コネ(大学が同窓会とか)の利点を最大限に利用できる。(全くの余談、米国のスタートアップ数社の日本市場参入の手伝いをいくつかやったが、彼らは皆な、日本はコネ社会でコネなければ、ビジネスができないとぼやく事しきり。これには、普通の日本の人は言い返せないから、いつの間にかそれが正しいということになってる。長年米国でビジネスを見てきた身から言えば、ご冗談をという気持ちだ。米国だってコネの社会だ。特にシリコンバレーでは、Stanford大学、Berkeley校の卒業生のネットワークはすごいものがあり、このネットワークに乗っていないとなかなか厳しい。) イスラエルの人々はアウエーの米国で戦うのであるから、その決心や精神力は並のもののではない。だいたい、米国のコンファレンスに参加するために、飛行機で飛んできて参加して、更に、市場開拓をしていくのである。大したものだ。現時点でClassiqのビジネスがうまく行ってるのは、こういう背景もあるのだなあと思う。

それはさておき、Minerbi氏はClassiqのビジネスと製品の説明から始めた。次の2つのスライドを見れば、非常によくわかる。

まず、従来のやり方。

まず従来の方式だと、実装する機能を仕様として規定 -> 既存のアルゴリズムを利用する -> 現在の案件に合致するように修正-> 最適化する、ここまで人間が介在するマニュアルで作業。最後にcompiler/transpilerを応用して与えられたQCハードウエアに合致する出力を生成する(この部分だけ自動化できている)。

それがClassiqを適用すると

流石に、最初の機能の仕様は人間が介在しなければいけないが、それ以降は全て自動で出力を生成できる。これは、昔の仕様から自動コード生成のようだ。これができるためには、幾つものの機能のモデルとドメイン知識をデータベースに格納しておき、場合に応じてそれを結合・統合して仕様を具体化して、最終的にCompiler/Transpilerに落とし込めるようになっていないといけない。

そのバックエンドは以下とコンパチのものが生成できる。

その部分の一部を示したスライドが次だ。

全体のアークテクチャーは以下のようだ。

最後のメッセージはなかなか良かった。「量子回路が有効なのはその1日だけ、量子モデルはずっと有効」だから「future proof」だとも。。。。なかなか、良いマーケティングのメッセージだ。

もう1つ特記するのは、Classiqは大学などの教育機関に製品を提供している。 現在のところ、このプログラムは無料で教育機関に提供されている。Classiqは「Classiq プラットフォームの革新的な自動回路合成を活用することで、量子回路を簡単に設計、分析、最適化できます。 量子コンピューティングのトレーニング ツールとして当社のプラットフォームを使用すると、量子コンピューティングの学習がさらにシームレスになりました。」と述べている。

ざっと見たところ、日本の大学はリストに入っていない。日本で採用されるにはUIの日本語化なども課題となるだろう。しかし、これは量子回路の設計などをビジュアルに見ながら体験できて、しかも無料なら見逃す手はないだろう。