高校の数学から理解する量子コンピュータ(3)

大学の量子力学

粒子が持つエネルギーは、波動関数にハミルトニアンという運動エレルギーと位置エネルギーの和からなる演算子Hを作用させることによって計算できます。ハミルトニアンには運動エレルギー計算において、波動関数の対する$x$についての微分が含まれます。関数に作用する演算子の固有値と固有関数を求めれば、波動関数が解け、量子力学的な状態がわかります。

ハミルニアンという名称は、1830年代に活躍したウィリアム・ローワン・ハミルトン にちなんでいますが、わかりにくいですね。波動関数に作用させるとエネルギーが計算でき、行列ですから、エネルギー変換行列とでも呼んだほうがわかりやすいです。

安定なエネルギー状態は、
$$
H \psi(x)=E \psi(x)
$$
を満たす波動関数 $\psi(x)$ (エネルギー固有状態)と定数 $E$ (エネルギー固有値) によって与えられます。

そして、このような系の時間的な振る舞い(時間発展)を決めるのは、シュレディンガー方程式です。
$$
i \hbar \frac{d}{d t} \psi(x, t)=H \psi(x, t)
$$
多くの資料では、このハミルニアンの具体的な形は、天下り的に与えられ、詳しくは述べられていません。それは、後ほど、単純な事例で、少し触れます。また、ハミルニアンは、パウリ演算子で表現されますが、それとシュレディンガー方程式の関係も、よくわからない点の一つです。これについても、後ほど触れます。

なにはともあれ、最低エネルギー状態と一つエレルギーが高い状態が求まったとします。
$$
\begin{aligned}
&H \psi_{0}(x)=E_{0} \psi_{0}(x) \\
&H \psi_{1}(x)=E_{1} \psi_{1}(x)
\end{aligned}
$$
2つの状態だけを考えれば、量子状態は、この2つの波を重ね合わせたものとして記述できます。複素数 $\alpha$ と $\beta$ を用いて、以下のように書けます。
$$
\alpha \psi_{0}(x) + \beta \psi_{1}(x)
$$
つまり、$\psi_0(x)$ や $\psi_1(x)$ は、定数ですから、それを明示的に書く必要はなく、係数だけであわわすことができjます。これば量子ビットです。
$$
\left(\begin{array}{l}
\alpha \\
\beta
\end{array}\right)
$$
ハミルニアンは、この二次元ベクトルの記述では、すでに対角化されたものとなります。
$$
H=\left(\begin{array}{cc}
E_{0} & 0 \\
0 & E_{1}
\end{array}\right)
$$
時間発展は、以下のようになります。
$$
e^{-i H t / \hbar}\left(\begin{array}{l}
\alpha \\
\beta
\end{array}\right)=\left(\begin{array}{l}
\alpha e^{-i E_{0} t / \hbar} \\
\beta e^{-i E_{1} t / \hbar}
\end{array}\right)
$$
外部から、強度$\Omega$ で相互作用を追加すれば、低エネルギー状態と高エネルギー状態を入れ替えるような効果のある行列要素を追加することもできます。
$$
V=\left(\begin{array}{ll}
0 & \Omega \\
\Omega & 0
\end{array}\right)
$$これを加えて、ハミルニアンが、
$$
H+V
$$
で与えれれるとすると、H+Vを対角化することによって時間発展を求めることができます。
$$
i \hbar \frac{d}{d t}\left(\begin{array}{l}
\alpha(t) \\
\beta(t)
\end{array}\right)=(H+V)\left(\begin{array}{l}
\alpha(t) \\
\beta(t)
\end{array}\right)
$$
そのパターンは、$2^{3}=8$ とおりになります。量子状態は、8次元の複素ベクトルになります。粒子が $n$ 個あると、$2^n$ 次元のベクトルとなり、ハミルニアンは、$2^{n} \times 2^{n}$ の行列になります。$n$ が大きくなると、この行列を対角化してエレルギー固有状態を求めたり、時間発展を計算したりすることは、指数的に難しくなります。これを、高速にやろうとするのが量子コンピュータなわけです。


ハミルニアンとは何なのか

シュレディンガーの波動方程式は、次のようのものでした。
$$i \hbar \frac{d}{d t} \psi(x, t)=H \psi(x, t)$$
つまり、波動関数の時間微分は、波動関数に、ハミルニアン$H$を掛けたものです。状態が時間的に変化するには、エネルギーが必要で、$H$ が、時間変化の原因となるエネルギーであるということができます。
ここで、以下のようなハミルニアンがあったとします。
$$
H=\left(\begin{array}{ll}
a & b \\
c & d
\end{array}\right)
$$
これは、4つの行列の線形結合として書くことができます。

$$
M=a\left(\begin{array}{ll}
1 & 0 \\
0 & 0
\end{array}\right)+b\left(\begin{array}{ll}
0 & 1 \\
0 & 0
\end{array}\right)+c\left(\begin{array}{ll}
0 & 0 \\
1 & 0
\end{array}\right)+d\left(\begin{array}{ll}
0 & 0 \\
0 & 1
\end{array}\right)
$$
こういうやり方はいろいろあって、そのうちの特別な場合が、
$$
\begin{array}{r}
\sigma_{x}=\left(\begin{array}{ll}
0 & 1 \\
1 & 0
\end{array}\right) \\
\sigma_{v}=\left(\begin{array}{rr}
0 & -i \\
i & 0
\end{array}\right) \\
\sigma_{2}=\left(\begin{array}{rr}
1 & 0 \\
0 & -1
\end{array}\right)
\end{array}
$$
として、$$
H=\alpha 1+\beta \sigma_{x}+\gamma \sigma_{y}+\delta \sigma_{z}
$$
と書くことです。量子コンピュータでは、ハミルニアンは、このパウリ行列の線形和で与えられることが普通です。

参考資料

高校数学でひもとく量子力学 藤井啓祐 Interface 2019年3月号
「ファインマン物理学」を読む 普及版 量子力学と相対性理論を中心として 竹内薫 ブルーバックス新書 (2019)