よろずQCのZen問答:(中)Boston Consulting Group: 量子コンピュータ(QC)が「夢物語」から、「実現」へ、に変わったら、何が起こるのだろうか?

上)編からの続き

初めに

米国の著名なBoston Consulting Group (BCG)がQCに関してのPress Release発表した。これに関しては、筆者のblogを参照。こののPress Releaseは以下のようなタイトルになっている。「Quantum Computing Set to Transform Multiple Industries, Create Up to $850 Billion in Annual Value by 2040, Latest Estimates Show」今回はこのPress Reportの元になってるBCGのレポート「What Happens When ‘If’ Turns to ‘When’ in Quantum Computing?」を見ながら解説して見る。このタイトルは非常に良く現状を表している。

「筆者注:。。。。。。。」以外はBCGの元のレポートの和訳である。

上)編は1から2番まで、(中)は3から4で(イタリックの上、紫の太字で示してある)(下)編は5から7までとする。

  1. QCの市場規模と投資の推移
  2. QCの応用分野
  3. 技術とそれを提供する各社
  4. QCの発展段階
  5. QCの発展段階毎の市場価値
  6. 技術提供社、ユーザー、投資家へのアドバイス
  7. 筆者所感

3. 技術とそれを提供する各社

筆者注 もちろん、QCを実現するにはQubit以上のシステムが必要ではあるが、ここで言う形式はQubitを実装する技術と言っても良いだろう複数の技術があるが、そのうち主なものは、以下の通り。Amazon Web Systemに関しては、欄外を参照。」

Amazon Web Systemのハードウエア

BCGのレポートにはAWSに関して、

recently Amazon Web Services are developing superconducting systems that are based on superpositions of currents simultaneously flowing in opposite directions around a superconductor.

BCGレポート

と言う記述があるが、筆者が知る限りAWSはQCのハードは開発しておらず、AWSのハードの上位層のAmazon Braketを介して複数のハードウエアにアクセスできるようにはしているが、ハードそのものを開発しているという公式な情報は発見できなかった。読者の中でご存知の方はお知らせください。

現在5つの方式が一番有望である。この5つは全て1990年台に基礎固めされた。

  1. 超伝導方式:IBMGoogleが採用している。この方式は超伝導物質の周りに反対方向から流れ込む2つの電流の「もつれ」に基づく超伝導システムを用いて開発している。開発が比較的容易であると言う長所がある反面、Qubitが量子状態を保てる時間が短く、絶対0度に近い温度を必要とする短所がある。
  2. イオン・トラップ型:Honeywell社IonQがこの方式を採用している。名前の由来は、電場で捕らえられたイオンが一列に並び、それぞれの状態はレーザーで制御されるからである。それぞれのイオンは(自然界に存在するもので)大きさも品質も一定であるので、超伝導型に比して欠陥が少ない。そのため、Qubitが量子状態を保てる時間が長いのと、ゲートの信頼性が高いと言う長所があるが、ゲート操作時間が長く、スケーラビリティに難がある。
  3. フォトニクス型:最近注目を浴びている。既存のシリコン・チップの製造技術やファイバー・オプティクスを応用できるからだ。Xanadu PsiQuantumはシリコン・チップ内を移動する光子の状態をQubitとしている。チップはそれぞれファイバー・オプティクスで接続されている。光ベースのQubitは外からの影響を受けにくく、エラーが起きても修正が簡単である。短所は光が広がることで、光子が失われることを改善する必要がある。
  4. 量子ドット:Qubitは電子か基質内の原子核のスピンから成り立つ。長い量子状態の維持とシリコン・チップ製造のノウハウの応用があるが、外部からの干渉による低いゲートの信頼性だ。Intel社とSilicon Quantum Computing (SQC)社が提供している。
  5. コールド・アトム:イオン・トラップと似通っているが、帯電していない原子を光で補足して、レーザーで制御する。ゲートの信頼性とゲート操作の遅延がある。しかし、水平のスケーラビリティをファイバー・オプティクスと赤外線を使うことで増加できる。また、将来的にはQRAMと呼ばれるメモリースキームを提供できる。
ハードウエア会社

量子メモリー

量子ビットの状態の保持が可能なメモリー。環境との相互作用による量子ビット情報の消失が微小であることが望まれる。核スピン(原子核の自転のようなもの)はエネルギー緩和時間や位相緩和時間が1時間や1日に匹敵するほど長くできることがあるため、量子メモリーとして有望視されている。しかし、光子など他の量子ビットとの間で量子情報のやりとりを確実にかつ誤差なく行うことも重要であるため、固有状態を二つもつ二準位原子イオントラップも研究されている。確実にかつ誤差なく量子情報のやりとりを行うことは当面最も力を入れて開発すべき課題である。それができれば、多少保持時間が短くても、量子誤り訂正を用いて量子情報の定期的リフレッシュが可能である。現行のコンピューターにメモリーが不可欠であるのと同様に、量子コンピューターに量子メモリーが不可欠であろうことはすぐ想像がつくが、ことさらメモリーが必要なさそうな量子通信においても量子メモリーが不可欠である(→「量子通信理論」)。それは、情報の損失による伝送距離の限界を破るために量子リピーター(量子情報を遠方へ送るための中継機)を用いることが不可欠であり、かつ量子リピーターには量子メモリーと量子非破壊測定(QND測定〈quantum nondemolition measurement〉 特定の物理量の観測値に不確定な影響を与えない量子測定)が不可欠であるからである。

時事用語事典(量子メモリー)

以下はBCGのレポートの技術の詳細な比較を載せた表である。

超電導イオン・トラップフォトニクス量子ドットコールド・アトム
有望と見るユーザの
割合
61%35%34%26%16%
Qubitの  寿命~1ms~50+sN/A~1-10s~1s
 ゲートの
信頼性
~99.6%~99.9%~99.9%~99%~99%
 ゲート
演算時間
~10-50ns~1-50μ~1ns~1-10ns~100ns
Qubit間の接続直隣全てが全てに
接続
全てが全てに
接続
直隣近隣
長所-技術的に成熟
-スケラービリティ
-スケラービリティ
-ゲートの信頼性
-Qubit間の接続
-水平スケラービリティ
-確立した半導体技術
-スケラービリティ
-確立した半導体技術
-水平スケラービリティ
-Qubit間の接続
短所-絶対零度必要
-接続が平面のみ
-ゲート操作時間
-1トラップ以上の
水平スケラービリティ
-光子ロスによる
ノイズ
-極低温必要
-まだ初期の技術
-ゲート信頼性
-ゲート操作時間
提供会社
  • IBMGoogle
  • HoneywellIonQ
  • PsiQuantumXanadu
  • IntelSQC
  • ColdQuantaPasqa
  • Qubitを実装する5のハードウエア技術の比較、BCGのレポートより

    上の表で、実際の値がないものに関しての意見は、科学雑誌のNatureやScienceなどの専門家の意見である。

    この5つの他にも様々な方式が提案されているが、この5つが主なものだ。特に今の段階では超電導とイオン・トラップがガンガンに飛ばしてる。

    PsiQuantumに対する最近の投資でその市場評価額が3,400億円だったこともあり、少し光子ベースにも光が当たり始めている。IBMとGoogleは資金力と顧客リストには不足はない。IonQは株式上場で2,200億円を調達しており。今後どうなるかは全く予測が不可能だ。それぞれの方式はqubitの品質、Qubit間の接続やスケーラビリティで独自の問題があるからだ。筆者注 正直なところ、このレポートまでCold Atom方式は全く知らなかった。必要な温度に関しては、量子状態を作り維持するためには絶対零度の-273.15周辺まで下げないとならない。0 kelvinは-273.15Cである。筆者がリサーチした限りにおいては、どの方式もその周辺まで下げないといけない。しかし、幾つかの記事論文ではシリコン方式は1 kelvinまで温度を上昇させることができると記されている。最も、シリコン方式はまだ実機が完成されていない。全て実験的なものだ。最後にあげられているコールド・アトム方式を採用しているColdQuantaは室温で稼働と主張している。しかし、量子状態を作るためには絶対零度周辺まで温度を下げる必要があると思う。」

    4. QCの発展段階

    筆者注 BCGのレポートは時期的な記載で本文と示されている図が必ずしもきっちりと一致しない部分がある。しかし、これはBCGが悪いのではなく、BCGが書いているように、現時点では、全てが予測に過ぎないからだ。」

    現在のQCはNISQ(自動エラー修正なしの小型QC)でこの状況はまだ後3-10年は続くと思われる。この不十分な状態でも研究者は適用分野が成熟することを期待している。特に、新たな化学物質の設計、創薬と投資のポートファオリオの最適化だ。

    BCGのレポートのテキスト部分を図に変更

    BCGはもう少し掘り下げており、成熟したQCに到達するために必要な要素は:

    1. Qubitの品質
    2. アブストラクション
    3. モジュール化
    4. スケーラビリティ
    5. エラー自動修正

    それぞれの要素はここで述べられている各社が提供すると言われている。次の図にまとめてある。

    BCGレポートより、筆者が形式を変更して提供

    「筆者注 この図からわかるように、1社で全ての必要とされる要素を満たす会社はない。これらの必要な要素が合わさってこそ、実用に耐えるQCへと向かうことができる。」

    これらの5つの条件が満たされれば、QCは飛躍的に進展する。しかし、その進捗は同じペースで進むことはないだろう。技術の発展に進捗が見られれば、それを使う新たなユースケースも出てくるだろうが、同じペースで出現すると言うよりは、大きく進歩する時期があるかも知れず、それと対照的に進捗が遅れることもあるだろう。時間に比例して均等に発見されると言うことではないと言うことだ。QCの初期のマイルストーンはQC発展の時間軸に応じて一律に影響を与えることはないだろう。そのため、AIが経験したような、投資が枯渇した所謂「AIの冬」の様なことはQCには起こらないだろう。

    QCが成功するかは基本的で進行中の科学発見に直結しており、いつ起こるか分からない発見で時間が大幅に短縮されるかも知れない。

    下)編に続く。。。。(下)は5、6、7(紫色、太字でイタリック)

    1. QCの市場規模と投資の推移
    2. QCの応用分野
    3. 技術とそれを提供する各社
    4. QCの発展段階
    5. QCの発展段階毎の市場価値
    6. 術提供社、ユーザー、投資家へのアドバイス
    7. 筆者所感

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です