よろずQCのZen問答:(上)Boston Consulting Group: 量子コンピュータ(QC)が「夢物語」から、「実現」へに変わったら、何が起こるのだろうか?

米国の著名なBoston Consulting Group (BCG)がQCに関してのPress Release発表した。これに関しては、筆者のblogを参照。こののPress Releaseは以下のようなタイトルになっている。「Quantum Computing Set to Transform Multiple Industries, Create Up to $850 Billion in Annual Value by 2040, Latest Estimates Show」今回はこのPress Reportの元になってるBCGのレポート「What Happens When ‘If’ Turns to ‘When’ in Quantum Computing?」を詳細に論じてみよう。このタイトルは非常に良く現状を表している。

筆者注

単に翻訳するようなものではblogとはならないので、筆者の独断と偏見で必要なら順番など変えてトピック毎に語ってみる。筆者の意見や追加の情報は、「筆者注。。。。。。。という様に記す。それ以外はBCGにレポートの内容だと理解されたい。また、レポート内でテキストで表現されているもののの一部は理解し易いように表や図で置き換えてあるものもある。一部の表や図は英語のまま提供してある。繰り返すが、「筆者注:。。。。。。と記していないものは、元のレポートの英文を日本語訳したものと理解されたい。訳に関しては、筆者の独断で、必要に応じて意訳してある。誤訳や意訳は全て筆者の責任に於いてのことである。このレポートはなかなか長くて、BCGのWebサイトのみで発表されている。PDFに落として見ると、約19ページになるので、blogを上、中、下の三つに分けて見た。元のレポートには、番号をつけた区切りはないが筆者が分かりやすいように番号をつけて分けてみた。また、このblogを書いている時点で、$1 はラフに110円であるので、そのように変換して記している。更に、量子コンピュータと書くのは長いのでQCと略す。

順番としては、以下の通りである。(上)編は1から2番まで(イタリックの上、紫の太字で示してある)、(中)は3から4で(下)編は5から7までとする。

  1. QCの市場規模と投資の推移
  2. QCの応用分野
  3. 技術とそれを提供する各社
  4. QCの発展段階
  5. QCの発展段階毎の市場価値
  6. 技術提供社、ユーザー、投資家へのアドバイス
  7. 筆者所感

1. QCの市場規模と投資の推移

古典コンピュータが解けない問題を解くことができる、所謂「量子優位性」があるのがQC。そのQCの実現と実用化への確信が高まっている。2020年には、QC分野の投資額が3倍になった。2021年には更に伸びると思われる。2021年にはQCに特化したIonQが株式上場を果たして、2,200億円を集めた。

まず最初にQC市場への投資状態を見てみる。以下の図はBCGの詳細レポートからで、2011年から2021年までの投資状況だ。

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BCGの詳細レポートより

各年の投資情報で、棒グラフ(目盛りは億円)で濃い緑はソフトウエアで、薄い緑はハードウエアに対応する。折線(目盛りは個数)は投資件数の変遷を示している。2018年以降のQCへの投資は現在までの総額の2/3に到達している。如何に、ここ数年QCへの期待と投資が大きかったかわかる。投資以外にもQCへの熱を測るものとして以下を挙げている。

筆者注 こう聞くと、ほう、今度は行くかも、と期待を持ってしまう。期待される分野には投資が集まり、人材が集まる。期待できますなあ。更に、レポートは盲目的なハイプでは無いと続ける。

この熱気を支える3つの要素は

  1. 前回のQCに関するBCGのレポート(2019年5月)以降、2つの「量子超越性」が示された。「量子超越性」と「量子優位性」の違いは欄外を参照。1つは、2019年の10月のGoogleが発表したものと、中国のUniversity of Science and Technology of Chinaが2020年の12月に発表した。
  2. QCの発展の時間軸が以前に比較するとはっきりとしてきた。ここ2年のうちに、先行しているQCの会社がこれからの10年間の開発計画(roadmapとmilestone)を発表した。
  3. QCが実現できたら、どの様に適用することができるかを定めたuse-caseの開発が進んで、どの分野でどの様に使われるかが鮮明になってきた。

量子超越性と量子優位性の違い

量子コンピューティングにおいて量子超越性(りょうしちょうえつせい、: Quantum supremacy)とは、プログラム可能な量子デバイスが、どの様な古典コンピュータでも実用的な時間では解決できない問題を解決できることを(問題の有用性に関係なく)証明することである[1][2]。それよりも弱い量子優位性 (quantum advantage) は、量子デバイスが古典コンピュータよりも速く問題を解決できることを表す。量子超越性には概念上、処理能力の高い量子コンピューターを構築するエンジニアリングタスクと、知られている最善の古典アルゴリズムに比べて、その量子コンピュータを用いて超多項式 (en:superpolynomial)の高速化ができるような問題を見つける計算複雑性理論上のタスクが含まれる[3][4]。この用語は元々ジョン・プレスキルによって広められたが、量子コンピューティングの利点、特に量子システムのシミュレーションの概念は、 ユーリ・マニン (1980) [5]およびリチャード・ファインマン (1981)の量子計算の提案にさかのぼる[6]

量子超越性のwiki

筆者注 明らかに、朧げながら、QC市場の輪郭がはっきりとしてきたのではないかなと思う。

2. QCの応用分野

応用分野の分類の仕方はいくつかあると思うが、BCGは以下の4つの大きな分野に分類してそれぞれに属する具体的なものをリストしている。

  1. Simulation(シミュレーション):自然界で起こる現象で、複雑すぎるため古典コンピュータでは解析できないような事象を扱う。創薬、バッテリーの設計、流体動解析、金融分野のデリバティブオプションの値付け
  2. Optimization(最適化):配達経路や金融分野のポートフォリオのリスク管理での最適化
  3. Machine Learning(MLまたは機械学習):ML アルゴリズムでトレーング用のデータの決定など
  4. 暗号:現存の暗号の解読やより解読不能な暗号の標準など

「筆者注:ちなみにBlueqatの湊氏は「量子化学」、「組み合わせ最適」、「金融」、「機械学習」に分けてる。量子化学はSimulationに対応している。また「最適化」を「組み合わせ最適化」と「金融」に分けているわけだ。金融は市場が大きいのでそういう分け方もあり得る。」

QCは単独では運用されず、古典コンピュータと一緒に使用される。所謂、Hybrid形式だ。古典コンピュータが十分に速く処理できない部分をQCが受け持ち、QCが不得意な部分(「筆者注:出入力など。。」)を受け持つ。

製薬会社業界の研究開発を見てみよう。新しい薬を開発するのに約2,600億円掛かる。動物を使った実験研究段階では臨床治験用にわずか0.1%の小さな分子が選択され、更に、僅か10%の臨床治験が実際の製品となる。創薬の研究開発のネックは古典コンピュータで扱えないこう言った分子の詳細な解析だ。QCを使えば、分子間の関係や動きを完全にモデルすることができる。どの組み合わせを選択するのが良いのかわかるだけでなく、うまく行かない組み合わせなどを(臨床治験を待たずに)取り除くことができる。個人個人に沿った癌の治療薬を製造することも可能となる。大手の製薬会社だと、研究開発費は1.1兆円程度である。QCを利用することで、最高で30%の効率増につながる。これで節約できた価値の80%を自社で享受できたとすると、2,800億円程度の節約に繋がり。営業利益が5%程度増加することになる。

次に金融業界を見てみる。銀行業界では世界中で毎年1,100兆円の取引のオプションやでラバティブがある。現在までは、値付けはMonte Carlo方式を使用して行われる。しかし、これではあまり精度が出ないばかりか、リスクをうまく加味することができない。こういったオプションやデラバティブを銀行が引き取った場合、それの価値とリスクは日々に変化する。銀行は毎日この計算を行なって最良の解を求める。現在では、その計算に約12時間かそれ以上掛かる。もっと詳細で複雑な経済の動きや危険性を予測するにはMonte Carlo方式を利用すると、1ヶ月ほど掛かる。QCを使えば、もっと速く計算が行える。だから、Goldman SachsはQC WareとIBMと組んで、2030年までに、Monte Carlo方式をQCのAlgorithm置き換えようとしている。「筆者注:この話は筆者の以前のblogを参照のこと。」

それぞれの分野を細分化してQC技術が確立されたときに見込まれる市場規模を元の形式から筆者が形式を変更して提示する。

SimulationOptimizationML暗号
製薬会社:創薬 4.4-8.8兆円ポートフォリオ最適化:2.2-5.5兆円自動車産業:自動運転、AIアルゴリズム 1.1兆円政府:暗号、暗号解読 2.2-4.4兆円
航空産業:流体動力学 1.1-2.2兆円保険:リスク管理 1.1-2.2兆円金融:不正防止、資金洗浄防止 2.2-3.3兆円企業:暗号、暗号解読 2.2-4.4兆円
化学分野:触媒設計 2.2-5.5兆円物流:ネットワーク最適化 5.5-11兆円技術分野:検索、広告最適化 5.5-11兆円
エネルギー分野:太陽光発電 1.1-3.3兆円航空産業:経路最適化 2.2-5.5兆円
金融:市場シミュレーション 2.2-3.9兆円
MLが影響するMLが影響するMLが影響するMLが影響する
筆者がBCGのレポートの表記を加工した

これを更に詳しく見ると。

分野アプリケーション生み出す価値(最低)生み出す価値(最高)
暗号暗号化・解読4.4兆円8.8兆円
Optimization航空産業:ルート最適化
金融:ポートフォリオ最適化
金融:リスク管理
物流:経路最適化、ネットワーク最適化
2.2兆円
2.2兆円
1兆円
5.5兆円
5.5兆円
5.5兆円
2兆円
11兆円
ML自動車:自動運転、AI Algorithm
金融:不正、資金洗浄防止
High Tech:検索、広告
その他:種々のAIアプリケーション
0
2.2兆円
5.5兆円
8.8+兆円
1.1兆円
3.3兆円
11兆円
8.8+兆円
Simulation航空産業:数値流体力学
航空産業:物質開発
自動車:数値流体力学
自動車:物質と構造設計
化学:触媒と酵素の設計
エネルギー:ソーラー変換
金融:市場シミュレーション
High Tech:バッテリー設計
製造:物質の設計
製薬業:創薬
1.1兆円
1.1兆円
0
1.1兆円
2.2兆円
1.1兆円
2.2兆円
2.2兆円
2.2兆円
4.4兆円
2.2兆円
2.2兆円
1.1兆円
1.7兆円
5.5兆円
3.3兆円
3.9兆円
4.4兆円
3.3兆円
8.8兆円
筆者がBCGのレポートの表記を加工した

こう書くとQCは良いことずくめだが実は欠点もある。それらは、

  1. QCはその原理から、単純な計算や命令の実行(このビデオを再生しろとか)には向いていない。そのため、QCに必要な情報を入力するためには古典コンピュータが必要である。QCが必要とするデータを量子状態に導くためには多くの演算を必要とするため、量子RAMとかが存在しないと折角のBig Dataなどの大量のデータをうまく利用できないかもしれない。
  2. Qubitの実装が難しい。超伝導型だと、絶対0度の温度を必要とする。また、現在のQubitが量子状態を保てる時間が極端に短い。更に、Qubitの信頼性があまり高くないため、自動的にエラーを修正する仕組みが必要である。そのために、多くのQubitを利用して、1つのQubitを実装する必要がある。例えば、Xanadu、IonQや IBMは早ければ2025年には、100万個単位のQubitを実装しようとしている。よく言われる安定した100 Qubitレベルを実現使用とするはこの程度のQubitが必要だからだ。1つの安定して信頼できるQubitのためには、そのエラー修正用に10,000個の余分なQubitが必要だからだ。10,000 * 100 = 100万。

最後に、地球環境に大いに注目が集まる中、電力消費量は関心の的である。電力消費今後のQCに必要な電力はそれをサポートする環境を除けば、わずかである。Google Sycamore では(200秒の稼働)数kWh程度だ。これに比して、Super ComputerだとMWhのオーダーで電力消費が必須である。

(中)編に続く。。。。。(中)は3と4。。。

  1. QCの市場規模と投資の推移
  2. QCの応用分野
  3. 技術とそれを提供する各社
  4. QCの発展段階
  5. QCの発展段階毎の市場価値
  6. 術提供社、ユーザー、投資家へのアドバイス
  7. 筆者所感

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