よろずQCのZen問答: 世界規模でみた現在の量子コンピューター市場を端的にまとめる (その3-1:ソフト)

漸く、書く方向がわかったので、その2.3の続きを書く。いつもの様に、blueqat社湊氏プレゼン資料ブログビデオに基づいて。このblogはQC(量子コンピュータ)に使われるアルゴリズムについてだ。まあ、ハードやcloudの開発や実装は一般人が関わることがあまりないので、我々一般人としては実際にアプリを開発するときに使用するソフトというかalgorithmは大切だ。

ところで、なんで湊氏やblueqatかというと、その存在が日本ではユニークだからだ。湊氏本人が以下のように語っている。見方を偏らせないで、ビジネス観点かつ世界視点でQCを見ている点で、非常参考になる。

弊社の珍しいところは、東京大学・東工大中心のメンバーで進めていましたが、特に大学の研究室をバックグラウンドとしてはおらず、ビジネス視点で常に物事を進めています。そのため大きな利点は方式に捉われずいろんな技術を身につけているところで、普通は量子アニーリングは東工大・東北大、量子ゲートは阪大・京大・東大みたいな棲み分けに乗っていないために、色々な経験をすることができました。

湊氏のブログ、量子コンピュータエンジニアを始めて6年目になったより

前置き

Algorithmなんだが、湊氏の説明をふむふむと聞いていると、わかった気になるが後でよく見直すとなんだかわからない。これは湊氏が悪いのではなく、QCのalgorithmが特殊で複雑なものだからで、復習は欠かせない。筆者は復習を兼ねてこのblogを書いている。人に簡単に説明できないような理解は理解ではない!!

ところで、こんな薄っぺらい内容でなく、algorithmの詳細を覗きたい貴方、日本語に限れば、最近出版された湊氏共著Qunasysのウエブの記事がお薦めだ。もっと包括的なリストにアクセスしたければ、Quantum Algorithm ZooQuantum Algorithm Zoo全訳 代数的アルゴリズム、数論アルゴリズム がある。ただ、このblogのような娯楽読み物ではないので、決して容易な読み物ではないのでそのあたりはお覚悟を。その他紹介から専門的なビデオ(日本語英語)をたくさんyoutubeで見つけることができる。しかし、大部分のビデオは、基礎を理解していなとなんのことかわからない。それで、あまり基礎知識がなくても、なんとなく感覚が掴めるようなものをこのblogで提供したい。

まず、algorithm/ソフトという前に、QCは汎用的にどんな問題にも適用されて古典コンピュータより強力とかいう話があるが、色々リサーチしていると決してそんなことはなく、ある特定の問題にのみ古典コンピュータに比して強力(かも知れない)だということだ。(しかも、全く問題なく動作する汎用的なQCがないから、本当にそうか必ずしも検証できていない。)では、古典コンピュータを圧倒的に凌駕できる問題への適用とは何か、どんな産業の分野に有効なのかを知りたくなる。ここで切り口だが、まとめる際に産業別に分けるのか、はたまた問題別に分けるのか悩ましい。例えば、最近の日経記事(元はCB Insightsの記事、翻訳して転載)には9つの応用分野が示されている。

量子コンピューターは近いうちに、従来のどのコンピューターよりも格段に速く問題に対処できるようになるだろう。化学反応のシミュレーションや物流の最適化、大規模なデータセットの分類など、膨大な変数や可能性がある課題への企業の対応に特に大きな影響を及ぼす可能性がある。

量子コンピューターが変革する9領域 金融・農業…より

この記事によれば、次の9つの分野がQCを適用するのに有望だ。この記事はそれなりに面白いので、後に別のblogにまとめる。

  1. 医療 (創薬などの化学計算)
  2. 金融 (市場やポートフォリオ動向予測、ポートフォリオリスク最適化や不正検知関連の複雑な最適化問題、確率のシミュレーション「モンテカルロ・シミュレーション」)
  3. サイバーセキュリティ(暗号化技術)
  4. ブロックチェーンと仮想通貨 (暗号・セキュリティ)
  5. 人工知能(AI) (機械学習)
  6. 物流 (最適化問題、国際配送ルートやサプライチェーン)
  7. 製造と工業デザイン (最適化、量子アニーリング)
  8. 農業 (最適化、化学反応シミュレーション)
  9. 安全保障(暗号解読、戦場シミュレーションの実行、高性能軍用車両用素材開発)

これは、産業別の分類(4のブロックチェーンと5のAIを除いて)だけど、機能別の分け方、すなわち産業横断の切り口もある。上の分類だと産業別と機能別の分類が混在しているのが、あまりすっきりしないが、皆がそうしているので、このblogでもそれに従う。

色々な記事を読むと、一番よく適用されるており、よってその分野や機能への研究が盛んなのは、量子化学計算(大阪大学からスピンアウトしたQunasysはこれを主に行なっている)、金融、組合せ最適化と機械学習だ。もちろん、上のリストのように他をあげるものもある。ここで、この4つの内、量子化学計算(上のリスト1の医療に属する)と金融(上のリストの2)は産業別の分類である。機能分類である組合せ最適化は上のリストないが、複数の産業分野に適用される(例えば、2とか8)。同じ機能分類の機械学習は上のリストでは5に属する。では、ガンガンにQCで突っ走ってる会社はどう思っているのか。以下は、IonQ社の投資家向けのプレゼンの一部だが、適用する分野とその時期を発表してあって非常に興味深い。

IonQ Investor Presentation

ここで、興味深いのは機械学習が2024年の初頭に来ており、2026年初頭には材料と最適化が上がっている。一番よく言われてきた量子化学計算が2028年まで遅れているのはふーんと思う。湊氏はblueqat社では最近機械学習に力を入れていると語っている。Googleもまた量子AIを強調している。

ところで、IBMはどうだろうか。IonQに比較すると随分詳細なプランをレイヤーごとに示している。分野ごとに見ると2020年から2023年までは、algorithmの開発という点では、自然科学(量子化学計算を含む)、金融、最適化、機械学習に重点を置いている。それ以降はその改善である。各々の分野の順番ははっきりとつけてはいない。どちらにしても、両社とも全く同じ分野に重きを置いている。IonQがはっきりとプライオリティを設定している反面IBMがそうしていないのは、IonQがスタートアップで人材や資金をIBMほど同時に複数の分野面に一時に投下できないことが大きな理由であろう。また、当然であるが、後に延ばされている分野・機能はそれだけ開発に時間を要するということだろう。                                                              

FrobesのIBM Reveals Five Year Quantum Development Roadmapより

その3-2に続く。。前置きはこのくらいにして、3-2では、実際の分野とそれに使用されるalgorithmについて語る。